2022年 2月 8日 VOL.185

撮影監督 ロバート・イェーマンがウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ』の撮影にコダックのカラーと白黒の35mmフィルムを使用

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』 Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

ウェス・アンダーソン監督は、独立系映画の製作で人気を博しており、セルロイド(フィルムの意)を生かし、数々の名優と風変わりな映像で、面白みたっぷりの突拍子もない人間ドラマを紡ぎ出します。待望の新作コメディー映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、おなじみの撮影監督であるASC(全米撮影監督協会)のロバート・D・イェーマンがコダックのカラーと白黒の35mmフィルムで撮影。いつも以上の映像が期待されます。

本作は「20世紀フランスの架空の街の…ジャーナリストたちに贈るラブレター」と銘打ち、設定は第2次世界大戦後とされています。フランスで雑誌を出版しているアメリカ人編集長が、フランスでの生活を多様な切り口で描いた記事を定期的にアメリカに送ります。そして今回も、多種多様な人物の物語が作品に織り込まれていきます。

『フレンチ・ディスパッチ』には、さまざまな俳優陣が登場します。アンダーソン作品常連のビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド、ティルダ・スウィントンをはじめ、監督の代表作である『グランド・ブダペスト・ホテル』のシアーシャ・ローナン、ウィレム・デフォー、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディらも作品を支えます。ティモシー・シャラメ、ベニチオ・デル・トロ、エリザベス・モスは、アンダーソン作品初出演。クリストフ・ヴァルツ、ロイス・スミス、ヘンリー・ウィンクラー、ルパート・フレンド、グリフィン・デューンに加え、フランスの俳優陣ドゥニ・メノーシェ、ギヨーム・ガリエンヌ、フェリックス・モアティ、ヴァンサン・マケーニュらも登場します。

アンダーソン作品に携わる多くのクリエイティブな協力者の中でも、監督のビジョンを映画として仕上げるにあたって、イェーマンはおそらく最も重要な役割を担っています。イェーマンは、ストップモーションを使った『ファンタスティック Mr. FOX』と『犬ヶ島』以外、すべてのアンダーソン作品で撮影を担当しています。

『フレンチ・ディスパッチ』に登場する豪華な顔ぶれ(前列左から)ティルダ・スウィントン、ロイス・スミス、エイドリアン・ブロディ、ヘンリー・ウィンクラー、ボブ・バラバン Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

『フレンチ・ディスパッチ』はアンダーソン監督との8作目。1作目は『Bottle Rocket(原題)』(1996年)、その後、『天才マックスの世界』(1998年)、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)、『ライフ・アクアティック』(2004年)、『ダージリン急行』(2007年)、『ムーンライズ・キングダム』(2012年)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)と続きます。『ムーンライズ・キングダム』は16mmですが、それ以外はすべて35mmフィルムで撮影されています。

『フレンチ・ディスパッチ』の撮影期間は50日間。フランス南西部ヌーヴェル・アキテーヌ地方のアングレームという美しい街とその近郊で、戦後の時代に見えるよう工夫をこらして撮影されました。使われていない工場の中にさまざまなセットが作られ、そこでも撮影が行われています。

「最初に本作の脚本を読んだのは2018年でした」と『グランド・ブダペスト・ホテル』でアカデミー撮影賞にノミネートされたイェーマンは振り返ります。「いつもながらウェスの書いたものは気に入るんですが、大変な撮影になるのはわかっていました。でも、それはいつものことです。どんな風に撮りたいかを何度も説明してくれますが、“どうすればそんなことができるんだろう?”とか、“そんなの無理だ!”と思うんです。ウェスとの仕事では大半がそんな感じですが、でもいつだってやり方は見つかります」

イェーマンはこう続けます。「多くのことがロケ地次第なので、実際に現地に行くまではあまり先入観を持たないようにしています。アングレームに着いて、我々はかなり時間をかけて一緒にロケ地を見てまわりました。確認のため、フィルムカメラを使って、その場の光だけで試し撮りをすることもありました。極端に光量の少ない状態でテスト撮影をすることが多かったのですが、ラボでかなりのディテールをシャドウから起こせることに幾度となく驚きました。フィルムのラチチュードは並外れています。こうしたテストを経て自信が持てたので、明るさについて思い切った撮影ができるようになり、以前よりもフィルライト(補助光)の心配をする必要がなくなりました」

『フレンチ・ディスパッチ』より、ティモシー・シャラメ(左)とリナ・クードリ Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

視覚資料についてイェーマンはこう振り返ります。「ウェスはいつも俳優やクルーが参考にできるようDVDや写真、書籍などを貸してくれます。特にヌーヴェルヴァーグやモノクロなどのフランスの映画製作が大好きで、フランス映画から多くを学んでいます」

数多くある作品の中でも監督が勧めたのは以下の作品でした。『鬼火』(1963年、ルイ・マル監督、ギスラン・クロケ撮影)、『墓場なき野郎ども』(1960年、クロード・ソーテ監督、ギスラン・クロケ撮影)、『望郷』(1937年、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督、マルク・フォサール、ジュール・クルーガー撮影)、『犯罪河岸』(1947年、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督、アルマン・ティラール撮影)、『女と男のいる舗道』(1962年、ジャン=リュック・ゴダール監督、ラウール・クタール撮影)、『現金に手を出すな』(1954年、ジャック・ベッケル監督、ピエール・モンタゼル撮影)。

「私自身が参考として持参したのは『冷血』(1967年、リチャード・ブルックス監督、コンラッド・ホール(ASC)撮影)です。今回の作品に登場する刑務所のシーンは、コンラッド・ホールの大胆なライティングと白黒撮影からヒントを得ました」

 

イェーマンが『フレンチ・ディスパッチ』の撮影に使ったカメラはアリカムSTとLTで、Cooke S4プライムレンズを付け、必要に応じてズームレンズも使いました。ほとんどの場面を1.37:1のアカデミーサイズのアスペクト比で撮っています。

『フレンチ・ディスパッチ』より、ビル・マーレイ(左)とパブロ・ポーリー Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

「前に『グランド・ブダペスト・ホテル』も同様の撮り方をしました。1.37:1だと劇中の1930年代を描きやすかったのです。監督も私も構図の可能性が好きで、仕上がりにはとても満足しました。このアスペクト比は、我々に影響を与えた多くのフランス映画でも使われていますが、同様に、『フレンチ・ディスパッチ』で想起しようとした時代の雰囲気作りにも役立ちました。時にはアナモフィックで撮ることもありました。主に大胆でドラマチックな場面を作り出すためです」。カメラとレンズのパッケージは、パリのRVZから提供されました。

監督も撮影監督も熱烈なフィルム支持者なので、フィルムかデジタルかの議論は一切ありませんでした。アンダーソンの作品で常に撮影を担当するイェーマンは、『フレンチ・ディスパッチ』の撮影で35mmフィルムを使用。カラーのシークエンスをコダック VISION3 200T カラーネガティブフィルム 5213で、白黒のシークエンスをイーストマン ダブル-X 白黒ネガティブフィルム 5222で撮影しました。室内も屋外も、日中も夜間のシーンにも、両方のフィルムが使われています。イェーマンは、85フィルターなしで日中の撮影に5213を200ASAで使用しました。35mmフィルムはパリの現像所、ハイベンティで増減感処理をすることなく標準現像され、Sixteen 19でラッシュフィルムが作られました。

『フレンチ・ディスパッチ』の撮影現場にて Photo by Roger Do Minh. Courtesy of Searchlight Pictures. © 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「フィルムの美的感覚が好きなんです。フィルムの粒状性のおかげで、この映画の特にモノクロ部分の魅力がグッと増しました」とイェーマンは言います。「最初は、白黒での撮影は少なめにするつもりでした。しかし、ダブル-Xの映像に惚れ込み、当初の予定よりたくさんのシーンを白黒で撮っています。最終的に、映画の半分がカラー、半分が白黒になりました」

「現場にいるクルーは少人数で、ビデオ・ビレッジもありません。唯一のスクリーンは、ウェスがカメラの隣に座って持っている小さな手持ちモニターだけです。基本的にウェスは俳優を見ていて、時折どう撮影されているかモニターをチラリと見ます。スタントやエフェクトなどがないかぎり、通常はプレイバックをせず、あまり話し合いもしません。監督は現場にいる人数が少ない方が楽しめるようです」

『フレンチ・ディスパッチ』より、スティーヴ・パク Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

ストーリーテリングの目的でカメラを動かすアプローチについてイェーマンはこう語ります。「いつものことですが、ウェスはあらゆる部門に対し、既成概念にとらわれず、思い描いたことを実現するために、もっとクリエイティブな方法を考え出すよう促しました。思いどおりに撮るために、ウェスは近代的な機材よりも、シンプルで独創的な道具を使うことを好みます。簡単な時ばかりではありませんが、必ず満足のいく結果が得られます」

「『フレンチ・ディスパッチ』の撮影では、事前に綿密な計画が立てられ、ウェスはカメラの動きについても、かなりのこだわりを持っていました。グリップ機材は極めて標準的なものを使っていましたが、ウェスが考えた複雑なドリーの動きについてはレールを使いました。レールの上にレールを載せ、同じショットの中で前後左右に動けるようにしたこともあります。基本的に、ほぼすべての動きをレールに載せたドリーで撮影しました。完全に手持ちで撮影したシークエンスが1つと、ステディカムで撮影したものが1つありますが、基本的に、ウェスはステディカムを使いません。ウェスの撮影は極めて厳密なので、ステディカムで撮るのは困難なのです。古いスタイルの撮影を好むので、かなりハイアングルからの撮影には、通常、テクノクレーンではなく足場を使いました」

パリのトランスパルクスから提供されたイェーマンのライティングパッケージは、HMIのセット、タングステンライト、ARRIのスカイパネル、そして、その他の小型LEDで、シーンやロケーションに合わせて用いられました。

「ウェスと私は、すべてのシーンについてライティング方法を徹底的に相談しました。ウェスの好みは知っているので、できるかぎり選択肢を提示するようにしています。私自身もライティングの設計をし、撮影中、セット替えにかかる時間を短縮しています」

『フレンチ・ディスパッチ』より、(前列左から)エリザベス・モス、オーウェン・ウィルソン、ティルダ・スウィントン、フィッシャー・スティーヴンス、グリフィン・デューン Photo Courtesy of Searchlight Pictures. © 2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

「常に私たちはフランスのヌーヴェルヴァーグから着想を得ています。曇りの撮影を願っていたら、わりと思いどおりの天気に恵まれました。つまり、日中の屋外では、ほとんどライトを使わなかったということです。手前と奥にいる俳優の両方にピントを合わせるためF11で撮らなくてはならないショットがありました。その時は複数の18Kを(白い布で覆った)天井バウンスし、さらに光を柔らかくするため下にグリッドを吊るしました。たくさんのライトを使いましたが、200TフィルムでF11の撮影が可能でした。夜の屋外とセットでの撮影で、普通のタングステンライトも使いました。特に気に入ったのはスカイパネルです。露出や色温度の面で驚くほどの適応性があるため、かなり広範に用いました。ライトパネルとタングステンライトは、基本的にiPadにプログラムされていたので、調整やライティングチェンジを撮影中でも短時間で行うことができました」

イェーマンのクルーに照明係のグレッグ・フロメンティンがいて、この撮影のためにパリから自身のライティングクルーを連れてきていました。「すばらしいコラボレーションでした。どういうライティングでシーンを撮るかを常に提案してくれるスタッフと仕事をするのはとても楽しかったです。一緒にいい仕事ができました。グレッグと彼のクルーは、よく事前に必要なライティングを想定し、私の一歩前を行っていました」とイェーマンは言います。

『フレンチ・ディスパッチ』の撮影現場にて Photo by Roger Do Minh. Courtesy of Searchlight Pictures. © 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ファースト・アシスタント・カメラは、ヴァンサン・スコテットで、イェーマンとアンダーソンの型破りな撮影方法にも短時間で適応することができたとイェーマンは言います。「絶妙なフォーカスをしてくれました。異なる場所にいる俳優たち皆にピントを合わせるため、しばしば分割する必要があったのですが、彼の仕事ぶりは見事でした」

サンジェイ・サミは、アンダーソンとイェーマンの作品で、いつもキーグリップの仕事をしています。「サンジェイはインド出身で、世界中で働いた豊富な経験で撮影を支えてくれます。ウェスがこんなショットを撮りたいと説明すると、サンジェイはいつも、それを実現するためのベストな方法を考え出しました。変わった機材を使うこともありましたが、いつも完璧に機能しました。笑顔とユーモアのセンスで、サンジェイは現場で常に愛されていました。しかも、彼の影響で私はラグビーファンになってしまったんです!」

イェーマンは、こうまとめます。「とにかくフィルムのルック(映像の見た目)が好きで、私たちは撮影した白黒の映像にすっかり魅了されました。これはデジタル撮影では実現不可能だったと思います」

(2021年10月11日発信 Kodakウェブサイトより)

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

   2022年1月28日公開

 製作年: 2021年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun

​ 配 給: ウォルト・ディズニー・ジャパン

​ 公式サイト: https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html