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2022年2月 10日 VOL.186

映画『高津川』
― 撮影 佐光朗氏(J.S.C.) インタビュー

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

優しい映画が出来ました。

島根県を流れる一級河川・高津川を舞台に、歌舞伎の源流ともいわれる「石見神楽」の伝承を続けながら、人口流出に歯止めのかからない地方の現実を前に懸命に生きる人々を描いた人間ドラマ。監督、脚本は『白い船』『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』『たたら侍』の錦織良成監督。中国地方の先行公開を実施し、その評判が口コミによって広がっていった本作が、コロナ禍による公開延期から2年、、、いよいよ2月11日(金・祝)に全国ロードショー。
 

今号では、前作の『たたら侍』でも錦織監督とタッグを組まれた撮影監督の佐光朗氏に、16mm撮影を選択された経緯と現場のお話などを中心にお伺いしました。(※インタビューは2019年に実施したものになります)

今回の作品で16mm撮影を選択された理由と経緯をお聞かせ下さい。

佐光C: 『たたら侍』から引き続き錦織良成監督とご一緒させていただいた作品ですが、前回は35mmのシネスコでと予算も大きかった作品でしたが、それと比べると今回は予算的に小規模な作品でした。それこそデジタル撮影でという話も出ていたのですが、監督はフィルムルックを希望されていましたし、フィルムで撮影するには予算的にはどうかとナックイメージテクノロジーさんにも相談していたところ、コダックとの16mmの製作支援キャンペーンがあったので、それに飛びついた感じです。今回の作品はCGも特に必要ないですし、それであれば撮影して現像して編集してMAしてと、特別なこともなく普段通りのフィルムでの仕上げの工程がスムーズにいくと思いましたので、予算を含めフィルム製作が実現可能かどうかを監督とプロデューサーの安川唯史氏とも相談して動き出しました。16mmといってもやはりフィルムですので、そのルックには信頼がありますし、今回の作品は島根の自然を相手にするので、実景の緑の発色にはフィルムはベストです。その自然の中での人間ドラマが作品のメインですので、それらを撮るにはフィルムだろうということで決まりました。スタッフも必要最低限の人数に抑えて、少数精鋭で撮影に臨みました。監督の出身地である島根で、2018年の夏にまずロケハンも兼ねて実景を撮影し、本編は秋に益田市、古賀町、津和野町で1ヶ月の撮影でした。
 

錦織良成監督(左)と佐光朗氏 Ⓒ2021「高津川」製作委員会

ネガからのスキャンは4Kスキャンですか?

 

佐光C: そうです。IMAGICA Lab.(現IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)さんに色々と相談に乗ってもらって、16mmのネガからScanityで4Kスキャンしています。スキャナーはCine Vivo®も試したのですが、若干画がフラットに感じたのと、35mmであればそれでも良いかと思ったのですが、16mmだとシャープネスのことも考えてScanityを選択しました。撮済については、ラボに陸送し現像、デイリーは3~4日分が溜まったらHDDで現場に戻してもらいました。

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

レンズは何を使われたのですか?

佐光C: カールツァイスのマスタープライムシリーズを使用しました。一番切れが良いレンズであることと、開放値が十分得られるという理由で選んでいます。また、コントラストを少し高くした画をイメージしていたので、それが可能なレンズですし、今回はフィルターなどは一切使用していないです。

佐光朗氏(左)とセカンドの吉野毅氏 Ⓒ2021「高津川」製作委員会

フィルムはデーライトタイプが8割、特に低感度の50Dが半分を占めました。

佐光C: 500T、200T、250D、50D、と全タイプを使用しています。テスト撮影だと高感度の500Tはイメージと少し違った感じだったので、当初は50Dをメインに考えていたのですが、天候の問題など物理的に無理なシーンがあり、高感度も使用しました。基本的に、晴れのデイシーンは50Dで、曇りや室内の場合に250Dを使用しています。200Tは、250Dよりも色彩と階調が豊かなので、夕景や一部の室内シーンで使用しました。500Tはナイターがメインですが、500Tで撮影した芝居のシーンを観てみると本編だとすごく良くて、フィルムで撮った良さが50Dのシーンよりも出ていて改めて驚きました。あと、『たたら侍』の時に余っていた35mmの端尺があったので、夏の実景はそれを使用しています。本編を観てみると、16mmで撮った芝居の合間に35mmの実景が入ってくるので、やはり35mmは凄く良いなと思ってしまいますね。監督とも次回作はまた35mmでぜひとも撮影しましょうという話になりました。撮り終わってから思ったのですが、16mmでもハイスピードや増感現像など、もっと色々なことを試してみても面白かったかも知れないなと感じています。

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

実際の撮影現場の状況はいかがでしたか?

佐光C: やはりフィルムで撮影していると現場の雰囲気が良いです。16mmなのでカメラは少し小さいですが、デジタルとは違う感じの現場になります。士気も上がりますし、ロールチェンジの休憩があったり、エキストラの方々や現場に見学に来られる関係者の方々にも、監督はわざわざ今回はフィルムで撮影していますという説明をされていました。今回のタイトルにもなっている高津川は、上流から下流まで1つもダムがない日本一の清流であるという話を、監督は毎回現場でおっしゃっていましたね。実は、この映画の企画はかなり前からあって、脚本も当初は少年たちが高津川を川下りして海に出ていくロードムービーのようなストーリーだったのですが、そこから色々と島根の伝統芸能の「石見神楽」の話なども盛り込まれていって、今回の映画になっています。

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

特に印象に残っているシーンはありますか?

佐光C: 映画の後半にある田口浩正さん演じる大庭誠の父親に関する芝居のシーンです。唯一地元を離れて東京で弁護士をしている誠は、久しぶりに高橋長英さんが演じる父親の大庭正に会ったときに、今まで目を逸らしてきた現実と、今失おうとしている大切なものを目の当たりにするシーンです。結構長い芝居になるのですが、画を観たときに、フィルムの持っているルックと人間ドラマのお芝居がしっくりとマッチしている大変良いシーンだと思いました。ぜひ皆さんに観ていただきたいシーンです。また、地元の方々が沢山出演している運動会や石見神楽のシーンも印象に残っています。

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

今回の撮影に関して、チャレンジされたことはありますか?

佐光C: 監督の以前の作品に『うん、何?』(2008年公開)という映画があるのですが、フィックスで撮られていて、ロングショットも多くて、淡々と島根の自然と人間ドラマを撮影している印象的な作品です。今回はその映画をイメージして撮影したいと思いました。スケジュールもなくてバタバタだったため、なかなか私がイメージした感じにはなっていないかも知れないのですが、実際の現場ではカメラが芝居を邪魔しない撮影を意識しました。せっかく全編をオールロケーションで撮影できるので、島根の美しい自然の風景とそこに住む人々のドラマを絡めた海外映画のような感じで撮りたいと思いました。素朴な映画ですし、淡々と撮っていったほうが観ている人を芝居に引き込めるだろうと思いました。

Ⓒ2021「高津川」製作委員会

結果的にフィルム撮影を選択されて良かったという印象でしょうか。?

佐光C: 今回のような自然と人間ドラマがメインの映画は、フィルム撮影との相性が非常に良いと思います。フィルム撮影の良さは、芝居などを撮影しているときに特に感じますが、こちらが観てもらいたいポイントに自然と観客の目を持っていける画を撮影できる点だと思います。デジタル撮影だと、余分なものが見え過ぎてしまうというか、目が別のポイントに行ってしまうということがありますが、しっかりと意図を持ったライティングをした結果、素直にそれを反映してくれるのがフィルム撮影だと感じます。デジタルの場合は、余分なものを映さないように意識したりしますが、フィルムの場合は光を当てなければ良いだけですし、撮影とは本来はそういうものだと思っています。

(インタビュー:2019年)

 PROFILE  

佐光 朗

さこう あきら

1958年生まれ。和歌山県出身。和歌山県立大成高等学校卒業。日本映画撮影監督協会会員。仙元誠三氏、佐々木原保志氏に師事。1990年『妖怪天国 ゴーストヒーロー』で撮影監督デビュー。日本でのステディカムオペレーターの第一人者

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『ピンポン』(2002年、曽利文彦監督)、『海猿』(2004年、羽住英一郎監督)、『交渉人 真下正義』(2005年、本広克行監督)、『LIMIT OF LOVE 海猿』(2006年、羽住英一郎監督)、『少林少女』(2008年、本広克行監督)、『THE LAST MESSAGE 海猿』(2010年、羽住英一郎監督)、『アンフェア the answer』(2011年、佐藤嗣麻子監督)、『鍵泥棒のメソッド』(2012年、内田けんじ監督)、『アンフェア the end』(2015年、佐藤嗣麻子監督)、『たたら侍』(2017年、錦織良成監督)、『亜人』(2017年、本広克行監督)、『弥生、三月 君を愛した30年』(2020年、遊川和彦監督)、『星屑の町』(2020年、杉山泰一監督)、『老後の資金がありません』(2020年、前田哲監督)、『ブレイブ -群青戦記-』(2021年、本広克行監督)など数々の作品で撮影監督を務める。

 撮影情報  (敬称略)

『高津川』

 

監 督  : 錦織 良成 
撮 影  : 佐光 朗(J.S.C.)

チーフ  : 岩見 周平

セカンド : 吉野 毅
照 明  : 加瀬 弘行
キャメラ : ARRIFLEX 416 Plus
レンズ  : ZEISS Master Prime、ZEISS ULTRA 16、ZEISS Lightweight Zoom
フィルム : コダック VISION3 500T 7219、200T 7213、250D 7207、50D 7203

現像・仕上げ: IMAGICA Lab.(現 IMAGICAエンタテインメントメディアサービス)

機 材  : ナックイメージテクノロジー
企画・制作プロダクション: goen'(護縁株式会社)
Ⓒ2021「高津川」製作委員会


公式サイト: https://takatsugawa-movie.jp/

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