2022年 7月 6日 VOL.193

カンヌ国際映画祭〈女優賞〉受賞!ヨアキム・トリアー監督作『わたしは最悪。』― 35mmフィルムで撮影された現代のラブストーリー

ヨアキム・トリアー監督作『わたしは最悪。』より Ⓒ 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VAST - SNOWGLOBE - B-Reel - ARTE FRANCE CINEMA

『わたしは最悪。』は、ノルウェーの首都オスロを舞台に、現代における愛とその意味を追求するコメディドラマです。ヨアキム・トリアーが監督を務め、デンマーク人の撮影監督キャスパー・トゥクセン(DFF)がコダックの35mmフィルムで撮影した本作は、2021年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを競うコンペティション部門に選出され、女優賞を受賞しました。

トリアーとエスキル・フォクトが共同で手掛けた脚本で描かれるのは、30歳の節目を迎えてなお方向性の定まらない人生を送るユリヤの4年間です。これまでいくつもの才能を無駄にしてきたユリヤに対し、グラフィックノベル作家として成功している年上の恋人アクセルは、結婚して家庭を築くことを望みます。しかし、ある夜、ユリヤは招待されていないウェディングパーティに紛れ込み、若くて魅力的なアイヴィンに出会います。程なくしてアクセルと別れ、新たな恋に身を委ねたユリヤは、その恋を通して自分自身を見つめ直し、すでに自分がいくつかの人生の選択を経て、今に至っていることを悟るのです。

製作費570万ドルのノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク合作映画『わたしは最悪。』には、本作で長編映画デビューを果たしたユリヤ役のレナーテ・レインスヴェやアクセル役のアンデルシュ・ダニエルセン・リー、アイヴィン役のハーバート・ノードラムが出演しています。この映画は、トリアーが人間の在り方を考察した作品群、いわゆる「オスロ三部作」の最終章を飾る作品です。残る2作品は、トリアーの長編デビュー作『リプライズ』(2006、撮影監督:ヤコブ・イーレ(DFF))とカンヌ国際映画祭のある視点部門でプレミア上映された『オスロ、8月31日』(2011、撮影監督:ヤコブ・イーレ)で、いずれもコダックの35mmフィルムで撮影されています。

「カンヌ国際映画祭に参加できることをとても誇りに思いますし、映画に心から敬意を表する観客に向けて、この映画がプレミア上映されることを知り、興奮しています」と語るトゥクセンは、2003年にデンマーク国立映画学校を卒業後、ミュージックビデオや短編映画、コマーシャルなどでフィルム撮影を頻繁に手掛けていましたが、これまで長編劇映画をフィルムで撮影したことはありませんでした。

「この映画を35mmで撮影するにあたり最も重要な側面の1つだったのは、35mmでの撮影がカンフル剤としてどのように機能するかということでした」と彼は話します。「レテーナは、この映画で初めて主役を演じましたが、彼女も他の俳優たちも持てる力を全て出し切りました。彼らにとって、すべてのテイクが舞台の初演のようなものだったのです。私たちは、その感情のエネルギーを失いたくありませんでしたし、フィルムでの撮影は、撮影現場における全員の集中力を高め、素晴らしい演技を捉える準備が常にできているという驚くべき効果がありました」

『わたしは最悪。』は、2020年4月にオスロで撮影を開始するはずでした。しかし、ノルウェーが全面的なロックダウンに踏み切ったため、厳しい検査と安全性プロトコルの下で同年8月初旬に制作を開始し、11週間後の10月に撮影を終了しました。そのため、トゥクセンはオスロに長期滞在することになりましたが、その時間を有効に使って、レンタル自転車でロケ地を見て回り、現場の光を観察しました。

トゥクセンはこう述べています。「ヨアキムも私も自然光が好きですし、私は夏の天候が我々の撮影に適していることを十分に認識していました。しかし同時に、ヨアキムは重要なシーンでは俳優に十分な時間を与えることを好み、かなり長いシーンもあったので、見た目を変えないようにライティングで調節しなければならないことも分かっていました。それは並大抵のことではありません」

光の連続性を確保するため、いくつかの屋外シーンは数日間にわたって撮影する必要がありました。ユリヤが魔法のように静止した街を横切り、アイヴィンに会いに行くシーンもその1つです。さらに、日中の長時間の屋内シーンの多くでも、やはり光の連続性を考えて、様々なARRIスカイパネルLEDライトからのバウンスライト、ARRIデイライトHMIフレネルスポットライト、LiteGear社のLiteTiles、さらには慎重に配置されたAstera社のチューブなど、人工の照明をコントロールして撮影する必要がありました。

トゥクセンは、撮影延期により生じた長い空き時間を利用して、ミケランジェロ・アントニオーニやアンドレイ・タルコフスキー、エリック・ロメールなどの著名な映画作家たちの作品、さらにはマーティン・スコセッシやポール・トーマス・アンダーソンなど、より現代の監督の作品でカメラの演劇的特性やストーリーテリングの力を学ぶよう、トリアーに勧められました。

ヨアキム・トリアー監督作『わたしは最悪。』より Ⓒ 2021 OSLO PICTURES - MK PRODUCTIONS - FILM I VAST - SNOWGLOBE - B-Reel - ARTE FRANCE CINEMA

トゥクセンはこう振り返ります。「ヨアキムは“ミザンセーヌ”(仏語:演出)が得意なんです。特定の部屋や場所に足を踏み入れた時に、彼がブロッキングやカメラの動き、ドリーショット、手持ちカメラやステディカムを使う瞬間など、俳優が自由にアドリブできるようにあらゆることを考えて、頭の中でシーンを作り上げているのが分かります。彼のこのような配慮により、私たちは常に十分な準備ができていましたし、誰もが撮影の前に何をすべきか分かっていました」

フィルムで撮影することはトリアーの契約書に明記されていたので、本作をフィルム以外で撮影することは全く議論になりませんでした。トゥクセンは、Cooke 5/iを装着したARRICAM LTと、150fpsのハイスピード撮影用にはオスロのStoryline Studiosから提供されたARRI 435を選択しました。ストックホルムのFocus Film LabとロンドンのCineLabが、フォトケミカルの処理とフィルムスキャンのサービスを提供しました。

「あらゆるレンズをすべてT1.4で試しましたが、Cooke 5/iを使うとフレアが抑えられ、よりソフトで目に訴えるような魅力的な印象になったため、Cooke 5/iを採用しました。私たちが主に使ったのは40mmレンズでした。ヨアキムは広角レンズでの撮影を好まないので、ミディアムショットやフルワイドショットの撮影のためにフレーミングする必要がある場合は大抵、レンズを交換するのではなく、後ろに下がりました。面白いやり方だと思いました」

「ヨアキムの映画はすべて1.85:1のアスペクト比で撮影されていて、今回も1.85:1で撮影しました。ポートレートに適した美しい比率ですし、3パーフォで撮影すると、ポストプロダクションでリフレーミングが必要になっても、それができる余裕があります」

フィルムストックに関しては、トゥクセンは、昼間の屋外や明るい屋内シーンの一部にはコダック VISION3 250D カラーネガティブフィルム 5207、低光量や夜間のシーンには500T 5219を使用しました。

「粒子、コントラスト、色再現の観点から、250Dと500Tは総合的に良い組み合わせです。しかし、ヨアキムにとって最も重要なことは、フィルムが色調、中でも特に肌のトーンをどう映すかということでした。彼は、泣いている目の赤や頬の赤みに見える感情を観客に理解して欲しいと思っていて、フィルムはそれをとても素直に美しく伝えてくれます」

「また、この映画にたくさん出てくる夕暮れや夜明けのシーンにはフィルムが最適でした。デジタルの場合、彩度によってはピクセルが階調など映像の細部を表現できないため、平坦な色のかたまりになりかねません。しかしフィルムで撮影すると、現場で見たとおりの映像が得られるので大変うれしくなります」

夏に山小屋に旅行するシーンなど、わずかなシーンで2台目のカメラが必要だったのを除き、本作は1台のカメラで撮影されました。ファースト・カメラ・アシスタントのウーラ・オースタッド、セカンド・カメラ・アシスタントのロビン・オッテルセン、カチンコとローダーのルイージ・コルテーゼのサポートを受け、トゥクセンが初めから終わりまでカメラを操作しました。ステディカムオペレーターはスティーグ・インドレボとアンダース・ホルクでした。キーグリップはモルテン・マグヌッセン、ガファーはオラフ・ハッデランド、ヤール・ヨンセン、ビョルン・ドッケンが担当しました。最終的なグレーディングは、Storylineのカラリスト、ユリアン・アラリーが行いました。

「みんながフィルムでの撮影に前向きで、意図した画を実現させるにあたり、彼らの存在がとても頼りになり支えになったと感じています」

トゥクセンはこう締めくくります。「ヨアキムからこの映画の撮影を依頼されたことは大変な名誉であり、映画の世界に戻るということは私にとって本当に心躍る挑戦でした。脚本を読んで、感情の軌跡にとても共感しましたし、ヨアキムの映画制作のアプローチから、カメラと光を使ったストーリーテリングについて多くを学びました。素晴らしい経験になりましたし、また是非やりたいです」

(2021年7月8日発信 Kodakウェブサイトより)

わたしは最悪。

   2022年7月1日より全国順次公開

 製作年: 2021年

 製作国: ​ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク合作

 原 題: The Worst Person in the World​

​ 配 給: ギャガ

​ 公式サイト: https://gaga.ne.jp/worstperson/