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2022年 8月 16日 VOL.194

映画『復讐は私にまかせて』― エドウィン監督、芦澤明子氏インタビュー

第74回ロカルノ国際映画祭で最優秀賞である金豹賞を受賞した『復讐は私にまかせて』がいよいよ日本で8月20日(土)に公開されます。本作はエドウィン監督と撮影監督の芦澤明子氏がタッグを組み、全編16mmフィルムで撮影されました。

このインタビューは2021年10月15日にコダック社から英語版で配信されました。
 

『復讐は私にまかせて』は、80 年代から90 年代に人気のあったアジアのアクション、格闘技、ギャングスター、ホラー映画へのオマージュです。(パラリフィルムズ提供)

インドネシアの脚本家でもあるエドウィン(代表作『空を飛びたい盲目のブタ』(2008年)、『動物園からのポストカード』(2012年))は、小説家エカ・クルニアワンの異色な格闘技ロマンスである『Vengeance is Mine, All Others Pay Cash』の映像化を担うのに最もふさわしい監督でした。今作は2021 年のロカルノ国際映画祭で最優秀賞の金豹賞を受賞し、BFI ロンドン フィルム フェスティバルのデア ストランドの一部として上映された、エドウィン監督と撮影監督である芦澤明子氏(JSC) との2 度目の協業となる作品です。その他の主要な国際的なクルーのメンバーには、タイのエディターのリー・チャータメーティクン氏とタイのサウンド デザイナーのアックリットチャルーム・カンラヤーナミット氏が含まれます。今号では、エドウィン監督と芦澤明子氏に今作でのクリエイティブな挑戦や、現場でのお話、一緒に作品に取り組んだ感想などについて語っていただきました。

原作のストーリーから脚本はどのように生まれましたか?

エドウィン: 脚本の執筆は2016年から2019年後半までかかりました。エカ・クルニアワンと私は映像化する強みを探したかったので、脚本にある種の新しさを発見するための広がりを持たせています。しかし、我々は間違いなく原作からの精神とエネルギーに忠実に沿った脚本にするために最善を尽くしました。

芦澤明子氏と初めてご一緒されたきっかけは何ですか?


エドウィン: プロデューサーのメイスク・タウリシア氏から芦澤明子氏を紹介されました。 2018年に日本で短編映画(東京国際映画祭と国際交流基金アジアセンターの企画)を制作する機会があったので芦澤さんに協力をお願いしました。東京国際映画祭での短編映画のプレミア上映の際に、彼女に『復讐は私にまかせて』の脚本を渡しました。この作品は、80年代から90年代に人気のあったアジアのアクション、格闘技、ギャングスター、ホラー映画へのオマージュです。芦澤さんの作品は多種多様で、アジアでの多くの映画製作の経験があり、映画製作に必要な言語を確実に理解されています。私はいろいろな国の映画的な言語を理解している撮影監督と一緒に仕事をすることが重要だと感じています。
 

芦澤明子氏は1980年代のインドネシアを描くには16mmフィルムが一番良いと考えました。(パラリフィルムズ提供)

エドウィン監督の演出スタイルはどうようなものですか? また、ご一緒された感想は?

芦澤C: エドウィン監督はオーソドックスな演出技法をベースに、独自の世界観を大胆に取り入れています。 チーフアシスタントディレクターは、すべてのシーンのショットリストと、俯瞰でカメラの位置が分かる設計図を作成して、その図をもとに、各シーンの撮影でエドウィン監督とコミュニケーションを取りました。

作品の視覚言語(視覚での表現方法)をどのように決めましたか?

エドウィン: この作品に関わったすべての役者に、自分たちの中にあるアジア文化の最も強い記憶を思い出して演技をして欲しいと依頼しました。参考文献を示したり、懐かしさをロマンチックに表現したりはしたくありませんでした。結局のところ、この作品は現代の問題を抱えた今日の観客のために作られた映画なのです。

芦澤C: エドウィンも私も直接的な説明描写が好きではないので、観客が何かを感じたり想像したりできるシーンを撮影することによって、それらを表現しました。ビジュアル面では、インドネシア人が好むシアンやオレンジなどの色調をさまざまなシーンで使用しています。人間の目には最も自然に見えるため、アスペクト比は ビスタビジョンで1.85:1を採用しています。
 

頭に思い浮かんだあるシーンを芦澤明子氏に説明するエドウィン監督(パラリフィルムズ提供)

この作品にフィルム撮影が必要だったのはなぜですか?

エドウィン: 私はフィルムで撮影してそれを現像する工程にいつも驚かされます。それは魔法のような工程であるだけでなく、画に美しい色とコントラストを生み出します。私は、真っ黒な画面からゆっくりと動きのあるイメージが現れるのを観るのが好きで、中間色のトーンに隠れているディテールを観るのも好きです。フィルムの持つ中間色のトーンは夢と記憶を完璧に再現する-すなわち純粋な映画なのです。フィルムでの撮影で私が気に入っているもう1つのことは、時間をフリーズできることです。中間色のトーンの粒子が想像力をかき立てます。

16mmのテクスチャー(質感)は、主役を演じたマルティーノ・リオとラディア・シェリルのロマンチックなラブストーリーを表現するのに役立っています。同時に、彼らが住む世界の過酷な雰囲気と暴力も完璧に捉えています。私はこの作品を16mmで撮影できたことをプロデューサーに感謝します。彼女は、フィルム撮影が作品にとって重要であり、クリエイティブな選択肢として物語を表現することができるメディアだと信じています。

芦澤C: エドウィン監督とメイスク氏はフィルムでの撮影に強い信念を持っていたので、私がこのプロジェクトに参加することは難しくありませんでした。1980年代のインドネシアを描くには16mmフィルムが一番良いと考えました。35mmフィルムは、この作品には綺麗過ぎるし、機動性が必要だったからです。全体の60% がVISION3 50D 7203、40%がVISION3 500T 7219です。感度については、現場をシンプルにするために1つのタイプに集約するべきかとも思ったのですが、50D 7203 の持つ濃密でクリアーな感じが好きなのと、50Dがフィルム撮影の基本と捉えているので、可能な限り使用しました。

ネガ現像は日本のIMAGICAエンタテインメントメディアサービスで行いました。2倍増感から1/4減感まで、すべてうまくこなしてくれました。減感現像のやわらかなトーンは、デジタルでは決して作れないものだと確信しています。
 

小説家のエカ・クルニアワンは、EDの喧嘩屋とマフィアのボディガードの女との異色な格闘技ロマンスを、インドネシアの脚本家のエドウィンと共同執筆しました。(パラリフィルムズ提供)

新型コロナウイルスによるロックダウンなど撮影に影響はありましたか?

エドウィン: はい、ありました。4週間の撮影でクランクアップ3日前に撮影を中止しなければならず、再開は半年間のロックダウンの後になりました。すべてのポストプロダクションはオンライン(リモート)での作業でした。結局、エディター、サウンドデザイナー、音楽監督とは直接会うことができませんでした。

撮影はどこで行いましたか? またロケ場所を見つけることは難しかったですか?

エドウィン: 映画のシーンのほとんどはレンバンとラセム(ジャワ島の中部)で撮影しました。脚本を書きながらロケハンを行ったので、多くの実際の現場からインスピレーションを得て撮影するきっかけになりました。マルティーノ・リオとラディア・シェリルの最初の出会いには、彼らの愛を表現できる過酷で暴力的な場所が必要でした。

芦澤C: レンバンはジャカルタから飛行機で1時間ほどの場所にあり、街全体が1980年代のインドネシアの雰囲気が漂っています。エドウィンとスタッフが撮影場所を慎重に選んでくれていたので、すべてが非常にスムーズに進みました。
 

雨が降る中、森の中で繰り広げられたドラマチックなアクションシーン(パラリフィルムズ提供)

現地の天候は撮影にどのような影響がありましたか?

芦澤C: 雨から天気への移り変わりが激しい季節でしたが、急に雨が降っても大丈夫なように機材に雨対策を施し、晴天から曇天への変化に対応できるように2タイプのフィルムを用意しました。その結果、マガジンの数はかなり増えましたが、天候の変化にはうまく対応できたと思います。自然の緑を綺麗に撮影できてよかったです。

カメラ、レンズ、照明機材は何を使用しましたか?

芦澤C: カメラはアリフレックス16mm SR3です。 レンズはカールツァイスZeiss Distagon 8mm、9.5mm、12mm、15mm、25mm、50mm、Vario-Sonnar 10-100mm でした。エドウィンも私もワイドレンズが好きではなかったので、主に15mm の単焦点レンズとズームレンズで撮影しました。カメラ機材は日本の三和映材社からレンタルして、照明機材はジャカルタのバート社から借りました。4キロワットのHMI は、私たちが使用した最大のライトでした。
 

アリフレックス16mm SR3 カメラとZeiss のPrimeレンズとズームレンズで撮影(パラリフィルムズ提供)

この作品での一番のチャレンジは何でしたか?

エドウィン: パンデミックがまだ終わっていない中で、インドネシアの劇場でこの作品を上映することですね。また、上映用の35mmプリントを作製して、この作品をインドネシアの野外上映会などで上映することができればなと心から願っています。この作品に対して多く方から好評をいただいていて、それは私たち全員が仕事を続ける中で、作品を作るために全力を尽くすモチベーションとなっています。この作品ができるだけ多くの異なる文化の方々に観ていただけることを願っています。

芦澤C: 新型コロナウイルスの影響よるタイと日本とのリモートでのグレーディング作業です。タイでのグレーディング作業が同時に観られるようにセッティングし、初日にカラリストと細かい打ち合わせを実施し、2日間で作業は無事に終了しました。お互いの美意識を共有できて、とても良い仕事だったと思います。

デジタルはどんなに進化してもドットの集まりであることに変わりはありません。フィルムは化学です。深さとなめらかさは比類がありません。フィルム愛のかたまりであるエドウィン監督と一緒に仕事ができたことを心から感謝します。
 

(2021年10月15日発信 Kodakウェブサイトより)

『復讐は私にまかせて』

   2022年8月20日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

 製作年: 2021年

 製作国: ​インドネシア・シンガポール・ドイツ合作

 原 題: Vengeance Is Mine, All Others Pay Cash

​ 配 給: JAIHO

​ 公式サイト: https://fukushunomegami.com/

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