2022年 11月 10日 VOL.198

第33回 マルセイユ国際映画祭 招待作品
蔦哲一朗監督作品『雨の詩』― 撮影 青木穣氏インタビュー

Ⓒ2022 ニコニコフィルム All Rights Reserved.

『祖谷物語-おくのひと-』の蔦哲一朗監督が、徳島県美馬市に誕生した日本初の自然エネルギーを活用するオフグリットハウス“アースシップ”(公共のインフラを必要としない建物)を舞台に、「脱成長」な生き方を描いた映画『雨の詩』が完成。自然光を活かし日本の里山の風景を美しく切り取った本作は全編16mm白黒フィルムで撮影。11月12日からポレポレ東中野、11月26日からシネ・ヌーヴォ、ほか順次全国公開されます。

 

今号では、撮影を担当された青木穣氏にフィルムでの撮影についてや、現場のお話などをお伺いしました。

蔦哲一朗監督にはいつもフィルムを選択して頂いていますが、今回の企画はどのように立ち上がったのでしょうか?

青木C: 今回に限らず、蔦監督との作品はフィルムで撮影することが前提なのでフィルムかデジタルかとフォーマットのことで話し合うことはありません。毎回話し合うのは35mmか16mmか、そしてカラーか白黒か、という選択肢です。本作品は次に撮る長編作を白黒フィルムで撮るということと、またその作品で雨降らしが重要なパートを占めることから、その2つの要素を含んだ短編作品を習作として撮ろうというところから企画がスタートし、文化庁の「ARTS for the future!」という支援制度の補助を得て45分の中編作品として完成しました。

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学生時代も16mm白黒フィルムをよく使われていたそうですね?

青木C: 学生時代ほとんどの作品を16mm白黒フィルムで撮っていたので、今でも私たちにとっては白黒という表現が特別なものではなく当たり前の選択肢のひとつになっています。もっとも当時は創作的な観点から白黒を選んでいたのではなく、白黒フィルムの方が安く、自家現像すれば現像代もかからないという経済的な理由からでした。最初は音のないサイレント映画を作っていましたがやがてサウンドネガが作れるようになりトーキー化を果たし、そして映写用アナモフィックレンズを撮影用に転用してワイドスクリーン化したりと、映画技術の発展の歴史を自分たちの手作り技術でなぞるような学生時代を送りました。その頃はいつかカラーで作品を撮りたいというのが目標でしたが、後になって思えば映像づくりの原体験を白黒サイレント映画でスタート出来たのは得難い経験となっています。

今回のフィルムタイプはどのように決められたのでしょうか?

青木C: フィルムは16mmのイーストマン ダブル-X 7222です。低感度のプラス-Xが大分前に廃番になってしまったので白黒ネガは1タイプになります。今回はネガのスキャン以降はデジタルでの仕上げなので、感度の問題やフィルム自体の入手のしやすさなどを考えるとカラーネガで撮影してポスプロで色を抜いて白黒にするという方法の方が現実的な利点は多いのですが、やはり私自身のルーツとしてのモノクロフィルムに対する思い入れの深さから、カラーネガで撮ることは考えませんでした。感度がデイライト光でEI 250、タングステン光で200というダブル-Xの感度は800や1600といった感度に慣れてしまった現代の感覚ではとても低感度で、特に予算もライトもないこのような作品ではナイターなど絶望的ですらありました。ただ、この映そうと努力しなければ映らない、そしてその努力は現像してみるまで結果が分からないというシビアな制約が映像を撮る感覚を研ぎ澄ませると思っています。フィルムは白黒ですが光学ファインダーはもちろんカラーなので、ロケハンの時からモノクロ用ビューイングフィルターを肌身離さず持ち歩いて、撮影時も常にファインダーとビューイングフィルターを交互に覗きトーンと露光を判断していました。時には本番中もファインダーを覗いてない方の目でビューイングフィルターを通して被写体を見ていました。例えカメラが完全にフィックスのカットであっても、頭の中で白黒に変換しながらファインダーを覗いている分、カラー作品を撮っている時より数段集中力が必要だったと思います。

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撮影時期とロケーションについて教えてください。

青木C: 2021年の10月に徳島県三好市と美馬市で撮影しました。徳島県は蔦監督の故郷であり、『祖谷物語–おくのひと-』以来幾度となく通った私たちスタッフにとってもホームグラウンドのようになっているので、予算も準備期間も極端に少なかったにも関わらずとてもスムーズに撮影を進めることが出来ました。雨降らしは地元の消防団の方たちの協力によるものです。

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機材についてはいかがでしょうか?

青木C: キャメラは私物のARRIFLEX SR3、レンズはキヤノンの8〜64mmをメインに、一部光量が足りないところのみ単玉を使用しています。スーパー16で1:1.85のビスタサイズです。基本ノーマル現像でナイターのみ2倍増感しています。日中屋外はモノクロ用シャープカットフィルターやPolaを入れてコントラストをコントロールしています。照明機材は電源の制限もあり消費電力の少ないLEDのみ使っています。

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仕上げはどちらで実施されましたか??

青木C: IMAGICAエンタテインメイントメディアサービスでネガから4Kスキャンしています。カラリストはスパイスの三浦徹氏です。作為的なルックをポスプロで作り出すのはあまり好きではないので、グレーディングはフィルムの持つ階調やコントラストを過度に壊さないように留意しました。完成後に街場の試写室を借りて試写した時に感じたのは、白黒作品は色がないのに映写条件の差が思った以上に如実に出てしまうということです。色がない分、映写の明るさやコントラストが狙いと違った出方をするとある意味カラー作品以上に気になってしまうように思いました。

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今回の作品の見どころを教えてください。

青木C: 前述したようにこの作品は次回作へ向けての習作のような形でスタートしていますので、スタッフもキャストも極小のチームで、また台本の形も作らずに箱書きのような紙一枚を元に即興的な進め方で撮影していきました。テーマやモチーフは蔦監督が昔から描き続けている自然への畏敬と憧れ、現代の消費社会への批判といったことを今回も貫いていますが、監督はいつも以上に自由に実験的な演出に挑戦していたように思います。極端な長回しの多用だったり、物語性が希薄だったり、いわゆるスローシネマと言われるようなジャンルに分類される決して万人受けするような作品ではありませんが、モノクロ16mmのトーンや粒子のうごめきとも相まって不思議な時間を過ごせる作品になっていると思います。

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次回作の『黒の牛』は35mm白黒フィルムと65mmカラーネガフィルムを使用されていますが、お話できる範囲で映画についてお聞かせください。

青木C: 『黒の牛』は明治時代の山を舞台にある男と一頭の牛を描いた作品で、35mm白黒をメインに、一部のシーンを65mmカラーネガで撮影します。既に今年の5、6月に35mmパートの7割ほどの撮影を終えていて、あとは来年初頭に35mmパートの残りを徳島で、65mmパートを台湾でロケする予定です。台湾の名優リー・カンション氏を主演に迎え、かなり手ごたえのあるラッシュがあがってきています。2023年に完成予定です。

 PROFILE  

青木 穣

あおき ゆたか

1984年生まれ。神奈川県出身。東京工芸大学芸術学部映像学科に入学。フィルム映画集団「ニコニコフィルム」のメンバーとして撮影に多く携わる。卒業後は東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻撮影照明領域に進学。2009年修了後、フリーランスで活動。撮影作品に真利子哲也監督『イエローキッド』(2009)、濱口竜介監督『永遠に君を愛す』(2009)、蔦哲一朗監督『夢の島』(2008)、『祖谷物語-おくのひと-』(2013)などがある。

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 撮影情報  (敬称略)

『雨の詩』

(2022年11月12日よりポレポレ東中野ほかロードショー)

出 演  : 須森 隆文/寺岡 弘貴
監 督  : 蔦哲一朗 
撮 影  : 青木穣
セカンド : 石井綾乃
サード  : 村上拓也
カラリスト: 三浦徹
キャメラ : ARRIFLEX 16 SR3 HS
レンズ  : Canon 8-64mm T2.4、Zeiss 9.5, 12, 16, 25mm T1.3、Meike 35, 50mm T2.1
フィルム : イーストマン ダブル-X 7222
現 像  : IMAGICAエンタテインメイントメディアサービス
制作・配給: ニコニコフィルム

公式サイト: https://www.amenouta-movie.com/