2022年 11月 18日 VOL.199

カンヌ映画祭ACID部門に初選出された日本映画『やまぶき』― 監督 山﨑樹一郎、撮影 俵謙太インタビュー

Ⓒ2022 FILM UNION MANIWA SURVIVANCE

岡山県真庭市の山間で農業に携わりながら、地方に生きる人々に光をあてて映画製作を続ける山﨑樹一郎監督の長編第3作。『やまぶき』は、地元でロケをし初めて16mmフィルムで撮影に挑んだ野心作。政治的な主題を声高ではなく繊細に描く作風が評価され、今年5月に行われたカンヌ国際映画祭のACID部門に日本映画として初めて選出される快挙を果たしたほか、多数の海外映画祭に招待されている本作がついに公開。11月5日(金)より渋谷のユーロスペースほかで公開中、順次全国公開予定。(ホームページより引用)

今号では、撮影を担当された俵謙太氏をメインとして山﨑樹一郎監督にも16mmフィルムでの撮影についてや、現場のお話などをお伺いしました。

16mm撮影を選択された経緯を教えて下さい。

山﨑監督: 今回初めて全編を16mmで撮影する作品になりましたが、実は毎回撮影フォーマットとして、フィルムという選択肢は必ず出ていました。予算の都合上なかなか実現することが難しかったのですが、今回はプロデューサーに絶対に16mmで撮影したいということをお願いしました。35mmや8mmなどの選択もあるのですが、私が学生時代から観ていたドキュメンタリーや映画などは16mmで撮影されていたものが多くて、その当時に影響を受けた作品が多かったため16mmフィルムは特に好きなフォーマットなんです。

俵C: 山﨑監督とはドキュメンタリーなど含めて5本ほどご一緒していまして、監督とはいつかフィルムで撮影したいという思いがありましたし、そういった話をよくしていました。今回は、岡山県の真庭市というところを舞台に、そこに住んでいる人々と、日の当たらないところに咲く山吹をテーマにした作品を撮るということで、フィルムが持っている繊細で微妙な色の階調や独特の深みが役者の芝居の裏にある隠れた心情や、山吹の微妙な色彩を表現するのにフィルム撮影は最適だと思いました。

16mmの描写に魅力を感じておられたわけですね。

山﨑監督: フィルムの画の良さは、デジタル撮影とは違って、物語の寓話性が上がるというか、撮ったものが映画としてうまくおさまる感じがあって、特に16mmフィルムの色味や質感は圧倒的にその特異性があると思います。

俵C: フィルムの質感については、劇中に山吹のカットが複数出てくるのですが、山吹色という言葉があるくらい独特な色味で、タンポポのような黄色ではなくて、すごく繊細で微妙な色の花なので、デジタル撮影だとその微妙な色彩の再現が難しく、そういった微妙な色を表現できるのはフィルムしかないと思いました。自然の緑の色彩についてもフィルムでしか表現できない色味というものがあると思います。

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撮影された期間を教えて下さい。

俵C: 撮影期間は2019年の4月から5月の1ヶ月間です。監督は岡山県真庭市在住で農業をされているので、これまで冬の間しか映画の撮影をしたことがなかったのですが、今回は初めて山吹が咲く春の季節に撮影しました。

フィルムタイプはどのように決められましたか?

俵C: テストで200Tと500Tを使用していますが、本編では500Tのみを使用しました。撮影部が2人だけだったので、あまりフィルムタイプを変更したくなかったのと、500Tの粒子感と被写体の影のエッジが丸くなる感じが非常に良かったのが理由です。使用本数も400ftで28本に収めました。本編は90分ですので、予算としては4倍までに収まればという感じでしたが、監督もガラガラ回すタイプの監督ではないので問題なくいけました。キャメラも、監督の知り合いからARRI SR3をご厚意でお借りすることができて、バッテリーだけ機材屋でお借りしています。レンズはツァイスの単玉とズームレンズです。

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実際の現場はいかがでしたでしょうか?

俵C: フィルムの現場ってよく緊張感があるといわれるかと思うのですが、今回の現場は逆で、役者やスタッフにフィルム撮影の過剰な緊張感を感じさせないように意識しました。もっとフィルム撮影とか映画の現場というものを楽しんでもらいたいという雰囲気を作るようにしたんです。監督ともフィルム撮影が初めてなスタッフを育てていくような現場にしようということで、撮影部の助手もフィルム撮影が未経験な方にお願いして、マガジンの詰め方からすべて教えて一緒にやりました。借りられたマガジンが2個しかなかったので、ちょっと大変でしたが、この映画の経験が次に繋がっていってくれると嬉しいです。

山﨑監督: フィルム撮影でも役者には過度なプレッシャーを与えないような現場を目指したのですが、後々聞いてみるとやはりキャメラからフィルムの回る稼働音を聞くと、気が引き締まると皆さんおっしゃっていました。また、作品の外側の話ですが、撮影現場の真庭市の地元でこの映画に協力してくださる方々と、東京から参加したキャストやスタッフとの間をうまく取り持って、現場がスムーズに回るように、合宿しているかのような楽しく映画撮影ができる現場になるように努めました。

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監督の現場は独特な手法で撮影が進んでいくと伺いましたが? 

山﨑監督: 私は脚本のすべてを決定していない状態で撮影することが多いので、現場に入るときにすでに脚本にルーズな部分があり、その余白部分を現場で埋めていくという感じです。イメージとしては、面白いシーンを毎回考えながら、ワンカットワンカット撮影していくので、設定が変わっていってしまう場合もあって、それを修正するために追加で撮影したりしています。

俵C: 監督の現場は一度決めた脚本にある設定を、躊躇なく変更していきます。初めてご一緒した時からそういったスタイルでした。今回はフィルム撮影ということで、モニターは特にない現場だったのですが、現場で変化していくスタイルというのは、実はフィルム撮影に合っていたと思います。フィルム撮影の場合は、撮れている画をスタッフがそれぞれ想像して現場が進んでいくので、同じ芝居を観て同じ空間を共有している方が、モニターを観ているよりもスムーズに感じましたし、監督の変化を積み重ねていく現場にうまくマッチしていたと思います。

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今回の撮影のスタイルについて教えてください。

俵C: フィックスもあるし、移動車もあるし、手持ちもありました。画面アスペクト比は、1:1.5という比率で、前回撮影した時代劇でもこの画面アスペクト比を採用しました。スタンダードとビスタの中間になります。ネガ上はスーパー16ですので、横幅に動かせますし、人物と背景のバランスが良くて私は非常に気に入っています。

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仕上げのワークフローについて教えてください。

俵C: 現像はIMAGICAエンタテインメントメディアサービスで、ノーマル現像がメイン、一部で1/2減感現像や銀残しもしています。16mmのネガからのダイレクトスキャンでCineVivo®で4Kスキャンしています。監督から、あまりリッチな感じではなくどちらかというとチープなルックにして欲しいという要望があって、その点を意識してグレーディングしました。抽象的ですが、全体的に鉛色な感じで銀残しもしている箇所もあるので、彩度を抑えた画に仕上がっていると思います。

銀残しされたシーンはどのあたりでしょうか?

 

俵C: イメージの世界を描写しているシーンがあるのですが、そのシーンで銀残しをしています。銀残しのルックは本当に独特で興味深い画になっていると思います。フェイストーンなどは彩度が抜けているのですが、山吹の色は強く残っていて、物語の後半部分で表現したい雰囲気に非常にマッチしていたと思います。現像の担当の方にできれば銀残しをしたいのですがと断られる前提で聞いたところ、少量であれば全然問題ないですよと快く引き受けて頂きました。

山﨑監督: 銀残しのルックは本当に素晴らしくて、次回にフィルム撮影をする場合は、全編銀残しでも良いと思えるぐらい良かったです。

照明の福田裕佐氏とはどのようなお話をされていましたか?

 

俵C: 福田さんとは、山﨑組で2本目になります。先にも述べましたが、山﨑組の現場は色々な変更があるので、臨機応変に照明も対応していただきました。基本的にお任せです。ストーリーで、主人公チャンスの家族の部屋の描写があるのですが、チャンスたちが生活している家の中と外の世界を意識させたかったのでナイターでも窓の外から光が差し込んだり、心情を表現するのに影に動きをつけたりと芝居に合わせて照明をうまくアレンジして監督の意図にあった家庭の描写になっていると思います。別のシーンでも意図的に色を足していくカラーライティングもしています。死体安置所の藤色のライティングは福田さんのアイディアです。

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編集は監督ご自身で行ったと伺いましたが?

山﨑監督: 先にもお話ししましたが、撮影現場で脚本が変化していくということは、編集作業にすごく時間がかかります。期間として2年半かかりました。2年半で細かい箇所を詳細に見ていって、脚本すら一旦忘れて作業したりしていました。コロナ禍で、劇場公開まで時間があったということもあり、それならば徹底的に満足がいくまで編集作業をしてみようという気持ちでした。

その後のグレーディングについては俵さんご自身が行われたと伺いました。

 

俵C: 監督の編集作業が長期間だったので、ピクチャーロックまでに実は色々なパターンがありました。そのすべてのカットのグレーディングを外注すると予算に全く合わないので、基準は、IMACAICA井上大助氏のLUTをベースにしてグレーディング作業を自宅で行っていました。

山﨑監督: 京都の太秦の試写室で、最終グレーディングのチェックをして画の色味が確定し、仕上がりについては非常に満足しています。フィルムの持っている質感を最大限に活かす方向で仕上げられたと思います。ワンカットワンカットを本当に触って仕上げました。

今回、フィルム撮影を選択されていかがでしたか?

 

山﨑監督: デジタル撮影だと映って欲しくないものが生々しい感じで映ってしまう感覚があって、ポスプロでデジタル処理をしてそういったある種の生臭さを消すことはできるのですが、露骨な感じがやはりあって、それを消すために音楽であったり他の要素を足したりして処理していく感じがあります。フィルム撮影の場合は、例えば社会性のある重いメッセージが込められたシーンがあるとすると、そのメッセージが重たくなり過ぎず、生々し過ぎない、映画としてちょうど良い感じに刻み込めると思っています。それをデジタル撮影でやろうとすると、技術もいるし、計算もいるし、到底、自分にはできないと思います。そういったことがフィルム撮影だと一発でクリアーできると今回、強く思いました。私は、学生時代に観ていた16mm映画の質感というものが非常に好みで、映画を創っているということもあるのですが、私にとって16mmフィルム自体が映画だと思っています。

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最後になりますが、今後のご自身の作品でのフィルム撮影についてはどうお考えですか?

俵C: 私の世代がぎりぎり助手時代にフィルムをメインで扱っていた世代だと思いますが、今はデジタル撮影の現場が多いので、フィルム撮影を知らいない世代にも技術を伝えていきたいと思っています。その中でも最近は16mmフィルムの作品が増えてきたというお話も伺っていますし、もっと気軽にフィルム撮影ができる現場が増えていけば良いなと思います。

山﨑監督: 今回16mmで撮影してみて、やはりその良さを再認識しましたし、次回作のフォーマットの選択でも非常に重要な選択肢になると思います。若いスマホしか知らない世代など、フィルム自体を知らない世代というのは本当にもったいないと思います。映画は元々連続した写真ですし、フィルムという媒体は手にすることができるもので、そういったことを知っているのは、映像に対する見方やセンスにも影響すると思います。私にとってもフィルム撮影を経験できたことは非常に良い経験でしたし、この作品に携わった方々にも貴重な経験になっていると思います。

(インタビュー2022年10月)

 PROFILE  

山﨑 樹一郎

やまさき じゅいちろう

1978年生まれ。大阪市出身。京都文教大学で文化人類学を学ぶ傍ら、京都国際学生映画祭の企画運営や自主映画製作を始める。2006年に岡山県真庭市の山間に移住し、農業に携わりながら映画製作を始める。初長編作品『ひかりのおと』(2011)は岡山県内51カ所で巡回上映を行う一方、東京国際映画祭やロッテルダム国際映画祭ブライト・フューチャー部門にも招待される。第2作『新しき民』(2014)はニューヨーク・ジャパンカッツ映画祭にてクロージング上映され、ニューヨーク・タイムス紙でも高く評価された。さらに、高崎映画祭新進監督グランプリを受賞。

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俵 謙太

たわら けんた

1982年生まれ。三重県伊勢市出身。ニュースキャメラマンから撮影助手を経て独立。劇映画、ドキュメンタリー、CMとジャンルを問わず幅広く活動。斉藤幸一氏、瀬川龍氏に師事。撮影助手として『感染列島』(2009、瀬々敬久監督)、『64』(2016、瀬々敬久監督)などに参加。『ひかりのおと』(2011、山﨑樹一郎監督)、『新しき民』(2014、山﨑樹一郎監督)、ドキュメンタリー『渦 UZU』(2017、ガスパール・クエンツ監督)、『息衝く』(2018、木村文洋監督)、などで撮影を担当。

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 撮影情報  (敬称略)

『やまぶき』

(2022年11月5日より全国順次公開)


監督・脚本: 山﨑樹一郎  
撮 影  : 俵謙太

撮影助手 : 高畠隆
照 明  : 福田裕佐
カラリスト: 俵謙太/井上大助
キャメラ : ARRI SR3
レンズ  : Zeiss 9.5, 12, 16, 25mm T1.3  Zeiss 11-110mm T2.2
フィルム : コダック VISION3 500T 7219 / 200T 7213
現 像  : IMAGICAエンタテインメイントメディアサービス

製 作  : 真庭フィルムユニオン/Survivance
配 給  : boid/VOICE OF GHOST

公式サイト: https://yamabuki-film.com/