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2022年 12月 29日 VOL.201

父と娘の葛藤を16mmで描き出した映画『フラッグ・デイ 父を想う日』

ショーン・ペンが初めて自身の監督作に出演した『フラッグ・デイ 父を想う日』 Ⓒ2021 VOCO Products, LLC

カンヌ国際映画祭のレッドカーペットの常連、ショーン・ペンが、娘のディラン・ペンと共に、監督および共演者として、『フラッグ・デイ 父を想う日』のワールドプレミアに登場しました。回顧録「Film-Flam Man: The True Story Of My Father‘s Counterfeit Life」に基づいた本作で、ディラン・ペンが、ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルを、ショーン・ペンが、詐欺グループの首謀者ジョン・ヴォーゲルを演じています。偶然にも、本作の撮影監督 ダニー・モダーは、自分が運転する助手席に娘を座らせながら、父と娘のテーマを深く掘り下げた伝記ドラマについて語り出しました。「撮影を始めるにあたり、私たちはストーリーを知っていましたし、俳優たちは奇跡のような顔ぶれだったので、そのクオリティとエネルギーをしっかり記録すべく最大限の努力をしました。ショーンが1つの作品で監督と俳優を務めるのはこれが初めてで、ショーンと私が協業するのも初めてだったので、不安を感じさせないよう、きちんと進行させなくてはというプレッシャーがありました。思うように十分な計画が練れていない日もありましたが、我々のフッテージを捉える手法に有機的な進化が生じるまで簡潔な表現が策定されました」

「ショーンと私は同じ町で育ったせいか、ストーリーの語り方の感覚が似ていました」とモダーは言います。「ショーンが初の監督作品『インディアン・ランナー』(91)をカンヌに出品したのが約30年前。その前から彼は俳優として多くの映画に出演していました。ショーンはこれまでの撮影で経験してきたことをよく覚えています。撮りたいビジュアルがショーンの頭の中にあり、それを伝えてもらうのに苦労することもありました。ある時はすごく古典的に、ある時は素早い動きで、ある時はオマージュでズームショットを撮りたがることもありました。子どもたちが幼い序盤のシーンでは、手持ちやカメラを動かす撮影方法をかなり多用しました。物語がディラン・ペンに移ると、固定したカメラでの撮影が増えました。私が個人的に、自分のキャリアの中でも一番と言っていいほどうれしかったのは、アイピースを通してショーンを見られたことです。俳優として巧みな選択をしながら繊細な演技をしていく彼を見守ることができて感激です。あらゆる苦労を忘れ、私たちはその演技に魅了されました」

30年前の『インディアン・ランナー』からキャリアを積み重ねてきたショーン・ペンが、監督作『フラッグ・デイ 父を想う日』のワールドプレミアでカンヌ映画祭に帰ってきた

ビジュアルの準備でモダーは、シーンの構成についてストーリーボード・アーティストのピーター・ベックに協力を依頼しました。「ピーターと私で、いくつかのシーンについて長時間話し合いました。カーチェイスや様々な場面の感情表現についてです。これを出発点とし、その後ショーンが手を加えていきます。すばらしい経験でした」。フィルムで撮影できるのは新鮮な体験です。「フィルムには他のメディアでは真似できない特徴があります。私たちの心が物事を捉えるのと同じような寛容さがあるように思います。物語の舞台は1970年代初頭から1992年まで。ショーンが最初に出した要求の1つはフィルムでの撮影でしたが、全員がそれに同意しました。16mmという選択は、そのルック(映像の見た目)が紛れもなくフィルムであるという点でさらに優れていました。ショーンから渡された参考資料の多くは、こうしたフィルムっぽさのある映像や深みのあるモノクロ映像でした。ショーンは私をDIテントに閉じ込めておこうとはしませんでした。プレイバックもなしです。撮影現場で映画を撮る昔ながらのやり方を採用しました。現場ではモニターへのアクセスも制限されていましたが、そのおかげで私たちは信念を持って前に進むことができ、クリエイティブで効率的な作業空間を確立できたのです」

『フラッグ・デイ 父を想う日』でショーン・ペンと初タッグを組んだ撮影監督 ダニー・モダー

『フラッグ・デイ』の95パーセントは、カナダのマニトバ州ウィニペグと米国ミネソタ州に実在する場所で、8週間のプリプロダクションと35日間の本編撮影が行われました。「この映画は幼い6歳の少女の語りで始まり、彼女が27歳になるまで続くため、その間にいくつもの季節が巡ります。ありがたいことに、作品の大部分は夏と秋に撮影できました。そして、3~4ヶ月の休みを取り、2020年1月に撮影を再開しました」。主に16mmフィルムは、コダック VISION3 50D カラーネガティブフィルム 7203と250D 7207、そして、500T 7219を使用しました。「一日の終わりに私は何を撮ったのか、どんな色を求めていたのかを記録しました。時々写真を撮って色をいじったりして、その日に撮ったフッテージと一緒にモントリオールのメルズに送り、現像とデイリーを依頼しました。週末や休日を挟まなければ24時間で戻ってきました。ショーンはビデオタップやモニターの色は正しくないと頑なに信じていたので、デイリーによって目指す色に近づけることができました」

フィルムには他のメディアでは真似できない特徴がある」と語る撮影監督 ダニー・モダー

カメラとレンズはケスロー・カメラ、照明機材はウィリアム・F・ホワイトからの提供でした。「できるだけタングステンを使うようにしました。タングステンの暖かみと強さが好きなんです。小さなセットではかなり熱く感じますが、タングステン照明を使うなら、それくらいの犠牲はやむを得ません。私のお気に入りのアイテムの1つは、昔ながらの提灯です。管理は大変かもしれませんが、日常的な雰囲気を再現するのに役立ちます。レンズパッケージは、ツァイス・スーパー・スピードとツァイス・ウルトラ・プライムの6mmから50mmの範囲で、35mm用の長いレンズは85mmと135mmです」。撮影監督を支えたのはすばらしいクルーたちでした。「ジェイソン・ヘケはファーストACで、非常に有能な部門ヘッドであり、機材やスタッフ、フィルムストックの在庫まで、すべてをスムーズに運営してくれました。マーカス・ジェイムズは、すばらしいBカメラ・オペレーターかつ協力者で、雰囲気をよく把握し、すばらしい仕事をしてくれました。リック・ドイルは私の最高のキーグリップで、どんどん腕を上げています」

父ジョンと娘ジェニファーの物語を、実際の父と娘であるショーン・ペンとディラン・ペンが演じている Ⓒ2021 VOCO Products, LLC

華やかなパーティの会場となった本物の湖畔の家がありますが、その4分の3のレプリカを炎上させるシーンがあります。ジョン・ヴォーゲルが保険金をだまし取ろうと企てる場面です。「ショーンは『インフェルノ』みたいに燃やしたがりました。燃やすためだけに大道具担当が美しい建物を建てているのは見ていて気の毒でした。ものすごい迫力で、これまで見たこともない光景でした。『地獄の逃避行』で家が燃える場面を知っているとしたら、それを想像してもらうといいでしょう」。撮影の大半は、アリフレックス 416のカメラ2台を使い、モダーがAカメラ担当、マーカス・ジェイムズがBカメラを担当しました。ところが家が燃えるシーンは、5台のカメラで撮影しました。「防炎スーツまで着て歩き回りました。すごい炎でした!このすさまじい映像には、ボブ・シーガーの曲が使われました。強烈です!」

撮影に工夫をしたシークエンスは、オープニングのシーンです。「夕暮れ時の幼少時代の記憶で、この瞬間の描き方に力を注ぎ、観客を映画の世界に引き込むのです。ARRIのスイングとティルトレンズを使ったんですが、すごく楽しかった。使用したのは25mmと45mmで、この撮影にうってつけのレンズでした。どうやらショーンも私も、頭の中にビジョンがある時は、やることをかなり具体的に限定するようです。私たちはそのロケ地を3日連続でマジックアワーに訪れ、すばらしい映像をたくさん撮りました。ストーリーボードはありません。夕暮れの光の中を子どもたちがいい感じで駆け回ってくれました。とても楽しく、クリエイティブな時間で、ありがたいことに、夏季の撮影スケジュールの最後で人手が少ない状態でした。一部の撮影クルーしかいなかったので、360度見渡すことができました。主にカメラ1台で、スイングとティルトの全映像を撮りました」

パティ・フォーゲル役のキャサリン・ウィニック(左)とジェニファー・フォーゲル役のディラン・ペン Ⓒ2021 VOCO Products, LLC

「映画の冒頭に、こんなシークエンスがあります。ショーンがステーションワゴンを運転していて眠りたくなり、11歳の娘(ジェイディン・ライリー)を呼んで膝の上に座らせるシーンです」とモダーは振り返ります。「助手席に座って2人を撮影しました。ショーンが言います。『俺は少しの間、目を閉じる。1時間ぐらい曲がるところはないから心配するな』。車を走らせる娘から道路にパンしました」。すべてを実写で撮るのは不可能だったので、エド・ブルース率いる視覚効果チームが、カフェの上のネオンサインを変えるなどの環境面の編集を行いました。「大きな透明のプラスチックの箱を使ったりもしました。中にカメラを入れて水中に沈め、湖で子どもが泳いでいるところを水面近くで撮ったのです。これは面白い道具でした。私たちはできる限り古典的で簡素なやり方を通しました」

光と色は主人公の心の状態を反映します。「序盤は暖かい色で明るく強い光を使い、前途有望な雰囲気を出しました。その後、真実が明らかになり、父親がかなり長い時間、刑務所に入ることになります。これが、私たちが青の時代と呼ぶものです。日中の屋外での撮影にタングステンフィルムを使い、青をより強く出しました。彩度は大幅に下げました。こういった変化をつけることで(感情の)移り変わりを表すのは面白かったです」。ペンは最初から、16mmにネイティブな1.66:1のアスペクト比ではなく、1.85:1にすると決めていました。「上と下を少しずつ切りました」。日中の屋外のシーンで、ドローンを使って撮影したものだけがデジタル映像です。「色彩に粒子とメッシュを加える必要がありました」。一部のシーンはDIで彩度を下げました。「カンパニー・スリー社の有能なステファン・ソネンフェルドがDIを担当してくれたので、ほとんど何も言う必要がありませんでした。本当に見事でした」

約20年間を書いた「フラッグ・デイ 父を想う日」は、撮影機関にブランクを設けることで士気をすべて表現 Ⓒ2021 VOCO Products, LLC

ペンは、その場所の良さを引き出すのがとても上手でした。「ショーンは、ウィニペグを走る列車をかなり気に入ったようで、映画の中にかなりの列車が登場します。ショーンとディランがダイナーの席に座っている長いシークエンスがあり、私たちは列車が通るのを待ち構えていました。主要な被写体が窓辺にいて、窓の外を電車が走る設定です。私たちはそこで1時間も待ちました。ついに列車がやってくると、俳優たちは慌てて位置につき、ショーンはダイナーから指示を出しました。ショーンの思いつきで撮ったシーンです。最終的に7分間のシーンになりましたが、ショーンはよく把握していたので、『この部分に飛ぼう』と言いました。後ろに列車が走っているのが見えるので、編集では、列車通過時の会話のどの部分でも使うことができました。ショーンが初めて1つの作品で俳優と監督を務めた本作は、美しい物語であり、忘れがたいプロジェクトとなりました」

(2021年7月7日発信 Kodakウェブサイトより)

『フラッグ・デイ 父を想う日』

   2022年12月23日より全国公開

 製作年: 2021年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: Flag Day​

 配 給: ショウゲート

​ 公式サイト: https://flagday.jp/

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