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2023年 6月 15日 VOL.212

フィルムを使いたいクリエーター向けの新たな拠点を提供するフランスの非営利施設「ナヴィール・アルゴ」

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エクレール社の跡地を利用したナヴィール・アルゴ

フォトケミカルのフィルムを重要なメディアとして、現代、そして未来のフィルムメーカーに提供することがナヴィール・アルゴ(Navire Argo)の第一の目標です。このフランスの非営利施設は、パリの象徴的なエクレール社のラボの跡地でフォトケミカルラボとフィルム上映施設を備え、ラボミナブル(L’Abominable)と呼ばれるアーティストの集団が主導するフィルムメーカー向けの新しい空間、活気のあるハブの開発に注力しています。

ナヴィール・アルゴは、フォトケミカルフィルム専門の実践型アトリエという拠点を作る構想を実現しようとしています。目指すのは、歴史的・文化的意義のある環境の中で、作品の制作、貴重な技術や価値ある知識の習得を可能にする場所の提供です。

建設プロジェクト「Navire Argo」の断面図

「フォトケミカルフィルムに対する情熱はフランスだけでなく世界中の、特に若い人たちの間で高まっています」と、ナヴィール・アルゴ プロジェクトを主導するラボミナブルの共同設立者の一人であり、フランス人映画監督のニコラス・レイは説明します。

「多くの監督、シネマトグラファー、ビジュアルアーティストがクリエイティブな表現の手段として、フォトケミカルフィルムを積極的に使おうとしています。特に若い世代にとってフィルムは魅力的であり、インスピレーションを与えてくれます。デジタルにはないユニークな手法やそこからの学びが可能だからです」

25年以上にわたり、ラボミナブルはフィルムメーカーが主導する非営利のフィルムラボとして運営されており、世界中の63を超えるアーティスト主導のラボで構成された活気あるフィルムラボネットワークの一翼を担っています。ラボミナブルはこれまでに約400本の映画制作を支援しており、現像やプリントの設備をナヴィール・アルゴの新施設に移し、さらに一般上映の主催が可能な映画館を併設する予定です。

ラボミナブルが所有するオックスベリー社のオプチカルプリンター

「カラーおよびモノクロの8mm、16mm、35mmフィルムでカメラからフィルム現像、編集、音響、フィルム映写に至るまで、アナログフィルムメディアのあらゆる素材を活用することを歓迎し、奨励する空間を作り出すことによって、フォトケミカルフィルムでの映像制作に対する情熱と炎を維持したいと考えています」と、レイは説明します。

「ナヴィール・アルゴが思い描くビジョンは、自分自身で制作する実践型アトリエ。フィルムメーカーが企画を持ち込み、自身で機械を操作してフィルムの現像や焼き付けを行い、思い通りに物事を進めることができる自由な空間です」

ナヴィール・アルゴは、その活動においてすでに大きな成功を収めています。敷地自体は1907年にシャルル・ジュルジョンが設立したエクレールのラボの跡地であり、2015年に閉鎖されるまで映画制作プロダクション、フィルムのラボ、映画カメラの製造、ポストプロダクションなどの施設として世界的に有名だった場所です。

現在、エピネー=シュル=セーヌの市議会が所有し、大規模な再生計画の中心となっているこの敷地は、ナヴィール・アルゴが1600平方メートルの建物の改装工事を請け負うことで、35年間賃料無料で利用できるようになります。この改装工事では、断熱材、暖房、水道、電気がない状態だった建物を再び機能させ、さらに一般公開用の映画館を運営するための設備やコンプライアンスを整えねばなりません。

プロジェクトには89席の映画館も

ナヴィール・アルゴのチームは、フォトケミカルの経験を何十年も積んできたフィルムの専門家とラボのベテランで構成されています。彼らは、主にCNC(国立映画映像センター)、イル・ド・フランス地方、セーヌ・サン・ドニ県などの公的機関の支援により、改装工事に必要な資金270万ユーロのほとんどをすでに調達しています。

現在フランス国内で5万ユーロ、さらに海外から5万ユーロ、合計10万ユーロの調達を進めており、この資金調達が完了すれば改装工事に着手できます。

将来の映画館の現在の様子

「改装工事、およびラボや映画制作に関する機器の設置作業は、2023年9月から約8ヶ月かけて行われる予定で、正式なオープンは2024年末頃になる見込みです 」とレイは述べています。

“愛のラボ”とも言うべき施設の開発に加えて、併設される89席の映画館は定期的に一般開放される予定です。8mm、16mm、35mmフィルムを上映する映写ブースも設置されます。

上映開始!

「この映画館は、フィルム映写の知見を今後何十年にもわたって維持していくことを目的としており、フランス、そしてヨーロッパ圏でもユニークな施設となります。歴史的なアーカイブ作品をオリジナルのフィルムプリントで上映する一方で、フィルムで撮影された現代の作品も上映します」とレイは述べています。

もし作品のフィルムプリントがあれば、『The Charter of Cinematographic Projection in the 21st Century』(www.filmprojection21.org : 21世紀映画映写憲章)に沿ってフィルム上映が可能な場所の一つでもあり、上映プログラムを豊富にするため、適切な温度・湿度条件の下で長期保存されるフィルムコレクションを施設内に用意する予定です。このコレクションは現在、他のフィルムアーカイブ、フィルムメーカー、配給会社、フィルムコレクターからの寄付により成り立っています。

ワークショップ、プロ育成セッション、アートのインスタレーションと展示、ライブ公演、年間フェスティバルなど、いずれも文化的なアウトリーチを支援するような幅広い活動でもこの施設を利用可能です。

実際、ナヴィール・アルゴが体現するすべてにおいて、フランスにおける映画制作の歴史的意義が過小評価されてはなりません。映画の誕生は、2人のフランス人発明家、オーギュストとルイのリュミエール兄弟によるものだと広く認識されています。1895年、彼らはフィルムに動く画を記録、さらにスクリーンに映し出すことができる装置「シネマトグラフ」の特許を取得しました。初作品として46秒の『工場の出口』を制作し、世間を驚かせました。

このようなルーツから125年以上にわたって、フランス映画は国内外の舞台で大きな成功を収め、文化的意義を獲得してきました。ゴーモン、パテ、ヌーヴェル・ヴァーグら映画作家たちが映画制作を先導してきましたが、その中にエクレールの名前が刻まれていることも忘れてはいけません。

「映画制作はフランスの文化に織り込まれています」とレイは言います。「ビジュアルアーティスト、フィルムメーカー、映画ファンにとって、ナヴィール・アルゴが映画制作のプロセスに精通し情熱を注ぐ人たちの助けを得て、アナログ映画制作の技法を実験、創作、企画し、そのスキルや知識を共有する場となることは、フランスだけでなく世界中の多くの人々にとって非常に重要なことです。私たちは貴重なフォトケミカルの可能性と知識を保持していくことに貢献できるでしょう。フィルムの魔法に触発され、今後どれほど素晴らしい才能や芸術的な試みが生まれるのか楽しみで仕方ありません」

「このプロジェクトは順調に進んでいます。映画の創作、育成、文化をこの先も継承していく生きた芸術院の支援ご賛同いただけるとありがたいです」とレイは締めくります。

ナヴィール・アルゴに関する詳細はウェブサイト(www.navireargo.org)をご覧ください。

(2023年4月28日発信 Kodakウェブサイトより)

ナヴィール・アルゴ紹介動画 『Le Navire Argo』(日本語字幕版)

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