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2024年 6月 11日 VOL.226

撮影監督 マリア・フォン・ハウスヴォルフがコダック 35mmフィルムで息をのむほど美しい景観を捉えた『ゴッドランド/GODLAND』

フリーヌル・パルマソン監督作品『ゴッドランド/GODLAND』の1シーン Photo Ⓒ Maria von Hausswolff DFF. Images Ⓒ Snowglobe.

19世紀後半、遠く離れたアイスランドのへき地に教会を建て、そこの人々を撮影するという布教の任務を与えられた若きデンマーク人の牧師ルーカスは、ルター派としての信仰心と湿板式カメラを持って旅に出ます。ルーカスは異国の地に新しい教区を作るための遠征に出たものの、過酷な大自然の奥に進めば進むほど、旅の目的や任務、そして道徳心を見失っていくのでした。

信仰と自然がどのように文化的アイデンティティーを形成するのかを検証する本作『ゴッドランド/GODLAND』は、デンマーク語とアイスランド語の2ヶ国語で語られる歴史ドラマで、2022年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて上映されました。役者の演技力の高さに加え、霧のかかった景観や激流の滝、厳しい氷河、うなる火山における人物描写などを4:3の比率で美しい映像に収め、360度で捉えた独特の映像により、観客もルーカスの視点で旅をしているような臨場感があると称賛されました。

フリーヌル・パルマソン監督作品『ゴッドランド/GODLAND』の1シーン Photo Ⓒ Maria von Hausswolff DFF. Images Ⓒ Snowglobe.

本作は、アイスランド人のフリーヌル・パルマソン監督と、デンマークのコペンハーゲン在住でありスウェーデン人のマリア・フォン・ハウスヴォルフ撮影監督(DFF)がタッグを組んだ3作目の映画です。2人はこれまでにコダックの16mmフィルムで撮影した『ウィンター・ブラザーズ』(2017)と、2パーフォレーションの35mmフィルムで撮影した『ホワイト、ホワイト・デイ』(2019)を制作しています。パルマソンは『ウィンター・ブラザーズ』によって世界中の映画祭で数多くの賞を受賞し、フォン・ハウスヴォルフも2017年のEnerga Camerimageで最優秀撮影新人賞を受賞しました。

「フリーヌルと私は映画学校の同期で、彼の短編映画を私が撮影しました。『ゴッドランド』については、卒業してすぐ彼から脚本をもらっていたので2014年頃から知っていました」とフォン・ハウスヴォルフは言います。「本作については、『ウィンター・ブラザーズ』や『ホワイト、ホワイト・デイ』の撮影の合間にも、時折2人で話していました。フリーヌルと仕事をする上で良い点は、映画学校で一緒に制作をしてきたおかげで、当時培った視覚的な言語を今も変わらず共有できることです。私たちの目標は、シンプルで嘘のない方法でストーリーを表現することと、じっくり制作を進めながら、それぞれの作品に独自の気質、ルック(映像の見た目)、そして音響を持たせることです」

「それと同時にプロジェクトごとに新しい表現方法を取り入れたいと思っています。今回は360度カメラでの表現を取り入れました。私たちはいつでも前作よりさらにクレイジーで難易度の高い仕掛けを要する作品を目指し、新たな一歩を踏み出そうと思っています」

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

フォン・ハウスヴォルフによると、ビジュアルの参考にした映画資料は特に無かったと言います。「絵画や歴史的な写真、そしてアイスランドの山々を登る古いドキュメンタリー映像などを参照しました。しかし私にとって最もインスピレーションが湧いたのは、フリーヌルと一緒にロケ地の雰囲気や空気を感じながらテスト撮影をし、その景観やポートレート写真から何を得たいのか話し合って過ごした時間です。その準備期間に火山の噴火を映像として捉えることができました。圧倒的な経験でした。地球の中心につながっている感覚があり、私たちの挑戦の美しい始まりを感じることができました」

フォン・ハウスヴォルフはこう続けます。「今回もフィルムで撮影することに迷いはありませんでした。『ゴッドランド』を4:3の比率で35mmフィルムに収めることにより、景観と人々の肖像をリアルに見せることができますし、ルーカスが湿板式カメラで撮影する写真とも共鳴します」

フリーヌル・パルマソン監督作品『ゴッドランド/GODLAND』の1シーン Photo Ⓒ Maria von Hausswolff DFF. Images Ⓒ Snowglobe.

本作の主要な撮影は、2021年の6月から8月初旬の間、40日以上をかけてアイスランド南東部の港町ヘプンにて行われました。ヨーロッパ最大の氷河であるヴァトナヨークトルで知られるフィヨルド、ホルナフィヨルズゥルの近くです。

フォン・ハウスヴォルフは撮影が始まる2ヶ月前に現地入りし、当時わずか1歳半の幼い我が子のために託児所を確保して、5ヶ月間に及んだ制作期間を過ごしました。

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

撮影は物語の順に沿って進められました。フォン・ハウスヴォルフ撮影監督によると、アイスランドの厳しい天候下、大自然の中で撮影機材を持ってルーカスの旅を撮影するのは、精神的にも体力的にも相当な負担を強いられました。そのため木造の教会が建てられたメインのロケーションでの撮影が再開される前に、役者と撮影クルーは1週間の休暇を取る必要がありました。

フォン・ハウスヴォルフは撮影全般を担当し、ファーストアシスタントはジュリアン・リリンドゥ、セカンドアシスタントはマルタ・ナトリが務めました。キーグリップはハラルドゥル・ラフン・トロァシウスで、照明監督はダーグル・ベネディクト・レイニソンです。湿板写真の撮影はホーデュー・ギアソンが担当し、パルマソンもいくつかの手持ち撮影と映画の最後に出てくるタイムラプスのシーンを撮影しました。

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

カメラとレンズをテストでいくつか使用して、フォン・ハウスヴォルフはARRICAM STとARRICAM LTのカメラ、ZEISSのSuper Speedsレンズ、そしてAngénieux 25-250mmズームレンズを採用することにしました。感情的なシーンで手持ちの臨場感が必要な場合を除いて、主に一脚かドリーに載せて撮影しました。カメラ機材はフランスのTSFとアイスランドのKUKLから提供されました。

課題となる様々な状況を見据え、撮影監督は日中の屋外撮影にはコダック VISION3 50D カラーネガティブフィルム 5203を使用し、曇りの屋外と日中の室内撮影には250D 5207を使用しました。そして夜間の撮影には500T 5219を選びました。フィルムの現像と4K解像度のスキャニングはストックホルムのFocus Film Labで行い、DIはヨーテボリにあるCAN Filmのカラリスト、ニコライ・ウォルドマンに依頼しました。

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

フォン・ハウスヴォルフはこう続けます。「アイスランドの天候は読めません。同じ1日の中でも雨や雪が降ったかと思えば、晴れて風が強くなることもあります。50Dや250Dなら、アイスランドの景色と人々の表情や肌の質感を豊かな色彩で表現できます。撮影している間に光の状態が変化することが想定されましたが、フィルムの質感や粒子が相性よく作用することが分かっていたのです」

「250Dのフィルムなら室内でも撮影できますし、窓から見える外の景色も細部まで豊かな色調で表現することができます。デジタル撮影で成し遂げるのはそう簡単ではないはずです。250Dは私たちが遭遇した霧の深い日でも優れた性能を発揮し、撮影時間を延ばすことができました。撮影していた時期のアイスランドは夜でも真っ暗にはなりません。日が暮れても撮影を続けるのに十分な光があったので助かりました」

「日中の室内はほとんど250Dで撮りましたが、木造の教会の中では500Tを使いました。教会の中はほとんど自然光が入らず、わずかな照明を利用するしかありませんでしたので、500Tで少しでも絞りを入れられるのは大変役に立ちました」

フリーヌル・パルマソン監督作品『ゴッドランド/GODLAND』の1シーン Photo Ⓒ Maria von Hausswolff DFF. Images Ⓒ Snowglobe.

フォン・ハウスヴォルフが撮影するパルマソンの作品は、被写体を中央に配置する構図が特徴的です。カメラを固定したフィックス撮影、水平に移動させるパン撮影、被写体に合わせて移動するトラッキング撮影でも、中央配置の構図が魅力的に活かされています。フォン・ハウスヴォルフはこう述べます。「私はとても直感的な性格です。シンプルなのが好きだし、被写体を中央に配置することで生まれるシンメトリーやバランスに惹かれます。構図としてもインパクトがあって面白いし、観客の注意を特定の被写体に向けることができます。シーンが変わってもフレームの中で見るべきポイントを探す必要がないので、視覚的に物語を理解しやすくなります」

フォン・ハウスヴォルフは本作に360度で撮影したシーンを2つ取り入れています。1つ目は夕方の光の中、ルーカスが傷を負って弱々しく草地に横たわっているシーン。2つ目はアコーディオンのバンド演奏がある夏のパーティーで、ルーカスが福音を説く相手であるコミュニティの人々のシーンです。

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

おそらく最もビジュアルとして印象的だったのは、数百フィートの高さから急こう配の滝と岩々をゆっくり見下ろすティルト撮影のシーンでしょう。

「あの日の撮影のことは、私もよく覚えています」とフォン・ハウスヴォルフは回想します。「湿って風が強く寒い日でした。あのショットを撮るために、滝の反対側にある崖に向かう必要があり、カメラ機材一式を持って長い山の斜面を登らなければいけませんでした。Angénieux 25-250mm ズームレンズを付けたカメラを三脚に載せて、何度もカメラの動きを確認しました。水の流れがよく見えない中で構図を決める必要があったのと、ゆっくり動かして撮るペースをつかむためです」

「三脚の雲台が電動ではないので、手で動かすのにかなり苦労しました。役者も寒さの限界だったので撮影を切り上げなければならず、思い描いたように完璧な撮影ができなかった自分に後から腹が立ちました。でも数日後にディリーを見たら、まるで絵画のように暗く抽象的で不思議な仕上がりになっていて、断然うれしくなりました」

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

ライティングについてフォン・ハウスヴォルフはこう述べています。「照明監督のダーグルがいつも天候をチェックし、カメラの露出にどう影響が出るか気を配ってくれたのが本当に助かりました。屋外では主に自然光のみで撮影し、レンズにNDフィルターを付けるか、真上から撮影するか、ディフュージョン効果を使って露出を調整しました」

「照明機材は限られたもので、SkyPanel S60と、ARRIのM18、M40、フレネルレンズスポットライトを数台、そして本物のキャンドルやオイルランプを使用しました。室内は大体とても暗く、オイルランプや暖炉やキャンドルの照明だけだったので、被写体のボリュームや形状を際立たせるために光を反射させたり、フレネルレンズスポットライトをメインライトにしたりしました」

『ゴッドランド/GODLAND』の撮影現場にて Courtesy of Maria Von Hausswolff DFF/Hlynur Pálmason.

フォン・ハウスヴォルフはこう締めくくります。「今回もフリーヌルと組めたことは素晴らしい経験でした。困難な状況にあっても常にビジョンを追及し、私の限界を押し広げてくれる監督と仕事ができるのはうれしいです。刺激的で、苛立ちや苦労を伴いますが、何よりやりがいを感じられます」

「当時はとても大変で、体力的にもきつい撮影でした。しかし役者たちも撮影スタッフも愛と情熱を持って撮影に挑むメンバーでしたし、厳しい天候の中みんなで撮影機材を持って険しい斜面を登り、真に過酷な状況を共にした私たちは家族のように団結していました」

(英語原文:2023年4月6日発信 Kodakウェブサイトより)

『ゴッドランド/GODLAND』

 製作年: 2022年

 製作国: ​デンマーク/アイスランド/フランス/スウェーデン合作

 原 題: Vanskabte Land

 配 給: セテラ・インターナショナル

​ 公式サイト:  https://godland-jp.com/

予告篇
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