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2024年 8月 9日 VOL.231

撮影監督ダン・ミンデルが35mmフィルムで撮影したスリリングなディザスター映画『ツイスターズ』

リー・アイザック・チョン監督作『ツイスターズ』より Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

2024年の夏、超大作ディザスター映画が戻ってきます。『ツイスターズ』は、自然界の驚異的な破壊力を臨場感たっぷりに体験させるスリル満点のアドベンチャーです。

本作は、『ミナリ』(2020)でアカデミー賞の監督賞と脚本賞にノミネートされたリー・アイザック・チョンがメガホンを取り、撮影監督のダン・ミンデル(BSC ASC SASC)がコダック 35mmフィルムを使用して4パーフォレーションのワイドスクリーンで撮影しました。3人の主要な登場人物を演じるのは、デイジー・エドガー=ジョーンズ、グレン・パウエル、アンソニー・ラモスです。それぞれ相反する動機で集まったこの3人が、超巨大竜巻の進路を予測して弱体化させようと奮闘します。『ツイスターズ』は米国内ではユニバーサルピクチャーズ、米国外ではワーナーブラザースにより配給されます。

アドレナリン全開のアクション作品は、かつて竜巻に遭遇して心を痛め、現在はニューヨークで安全な画面上で嵐のパターンを研究している元ストームチェイサーのケイト・カーターを追います。そんな中、画期的な追跡システムをテストしようとオクラホマ州中央部の平原地帯にある「竜巻街道」に誘い戻された彼女は、魅力的で無謀なソーシャルメディア界のスーパースター、タイラー・オーエンズと出会います。彼は、騒々しい仲間たちと嵐を追跡する冒険を投稿することに生きがいを感じており、危険であればあるほど良いのです。嵐の季節が勢いを増すなか、これまでに見たこともない恐ろしい現象が巻き起こり、複数の嵐が重なった時、競い合っていたチームが命がけで立ち向かうことになります。

『ツイスターズ』の撮影現場にて Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

『ツイスターズ』の屋外ロケでは、時には風や雨といった厳しい気象条件に加え、多数の製氷機を使用したり、派手なスタントシーンやSFX、VFXもふんだんに折り込まるなど、撮影監督にとっては大変な困難が予想されましたが、ミンデルはその挑戦を楽しんだと言います。

「『ツイスターズ』については、脚本を読んでアイザックと話をした直後からワクワクしていました。この作品が気に入った理由は、人類にとって大変重要な問題である気候変動についての会話のきっかけになるだろうということ、そして、このような手に汗を握るスリラーを作るには、スタッフ間の確固たる協力体制が欠かせないことです。この種の紀行映画の勢いと緊迫感は、まさに私の好みに合っていました」

ミンデルはこの作品に対する熱意について語るとともに、制作に先駆けて視覚的な参考資料を理解していきながら、いくつかの良い兆しに遭遇したことにも言及しました。

『ツイスターズ』の撮影監督 ダン・ミンデル Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「本作は屋外のロケーションが多く、トラックに乗って場所を移動しながら昼夜問わずの撮影になることが分かっていました。また車内にカメラを搭載して撮ることも多いと予想されたので、『テルマ&ルイーズ』(1991、リドリー・スコット監督、エイドリアン・ビドル撮影監督(BSC))を見直してみたんです。とてもアメリカ的で車の撮り方が美しい映画ですからね。私はこの作品でエイドリアンのフォーカスプラーでしたが、この経験でロードムービーの厳しさと楽しさを知りました」

ミンデルはさらにこう続けます。「1996年の『ツイスター』(ヤン・デ・ボン監督、ジャック・N・グリーン撮影監督(ASC))も、ある晩自宅で妻と一緒に見ました。妻はある種の映画に懐疑的になることがあるのですが、この作品は心から楽しんでいたので、それもまたいい予兆に思えました」

ミンデルはフィルム撮影の経験も豊富です。J・J・エイブラムス監督の『M:i:III』(2006)、『スター・トレック』(2009)、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013)、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(2015)、オリヴァー・ストーン監督の『野蛮なやつら/SAVAGES』(2012)、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)、ジュリアス・オナー監督の『クローバーフィールド・パラドックス』(2018)。これらの作品は、すべて彼がアナログで撮影したものです。

『ツイスターズ』のロケ現場にて Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「アイザックと私は最初から“フィルムに勝るものなし”という意見で一致していました。デジタルで撮影された非常に多くの作品はクリーン過ぎて、そのため無機質に感じるのです。『ツイスターズ』ではCGを使ったVFXも多く使われることが分かっていましたが、私の過去の経験から、フィルムの持つ寛容な柔らかさがそれらを最終的な映像に調和させる助けとなり、観客に魅惑的な体験を届けられるということも分かっていました」

プロデューサーの後押しもあり、『ツイスターズ』にフィルム撮影のゴーサインが出ました。4ヶ月の準備期間の後、2023年5月にオクラホマシティとその近郊で主要な撮影が始まりました。通称「竜巻街道」での撮影には常に気候によるリスクが伴うことをミンデルは分かっていました。5マイル(8キロ)内に落雷があった場合、撮影は中断され、安全が確認されるまでクレーンなどの機材も片付けなければなりません。ところが、それよりはるかに大きな危機が訪れました。7月の全米映画俳優組合のストライキによって撮影が中断し、2023年11月にようやく再開、翌月に撮影を終了したのです。

「アイザックのように、ストーリーを重視し視覚的にどう語るかに重きを置いている監督と仕事をするのは新鮮でした。彼は安易にVFXに頼ろうとせず、できる限り実写で撮影しようと考えていました」

『ツイスターズ』より Photo courtesy of Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「私はアナモフィックレンズで撮影するのが大好きなんです。アイザックも、我々がオクラホマでロケ地として選んだような広大な田園地帯を見せるにはワイドスクリーンのアスペクト比がいいという考えに同意してくれました」

「現地のほこりっぽい赤茶けた道と緑の平原にはフラッキング採掘の現場や油田のポンプジャックなど、現代的な構造物も点在していました。我々はそれらもすべて、現代のアメリカの風景として映像に取り入れるしかありませんでした。私は1970年代のタイム・ライフ誌のような フォトジャーナリズム的なルック(映像の見た目)を目指して現代のアメリカの地方をできるだけ肯定的に見せることを提言し、アイザックもそれに同意しました」

ミンデルが選択した35mmカメラはパナビジョン・ミレニアムXL、ARRIFELX 435と235で、VFXのプレートと一部の空撮にはデジタルカメラを配置しました。撮影のメインレンズにはパナビジョン・プリモ・アナモフィックを選択し、補助的にCシリーズとTシリーズのアナモフィックを使いました。カメラとレンズはロサンゼルス・ウッドランドヒルズのパナビジョン社から提供されました。

『ツイスターズ』の撮影の様子 Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

ある種の美的な効果のためにレンズを調整するという最近の傾向に逆らい、ミンデルはパナビジョンレンズの第一人者であるダン・ササキに、自ら選んだプリモ・アナモフィックレンズのセットを工場出荷時の状態に戻すよう指示しました。

「ダンは最も優れたレンズマスターであり、ガラスで魔法のようなことをします」とミンデルは述べています。「しかし私は今回、撮影した映像にタイム・ライフ誌の雰囲気を出したいと考え、錯乱円や甘く歪んだエッジなどの個々の欠点をそのまま残した、そのアナモフィックレンズが作られたままのルックが欲しかったのです」

「レンズや光学系を当初設計されたままの状態で使用するのは何も悪いことではありません。シネマトグラファーとしての技量を存分に発揮してそれらを使いこなし、ストーリーテリングの邪魔をせず、むしろより効果的に伝えるようにするのが腕の見せどころです。すべてのレンズは撮影前に歪みを計測してあるので、これらの映像のアーティファクトが後でVFXチームに問題を引き起こすことはないと分かっていました」

『ツイスターズ』のデイジー・エドガー=ジョーンズ(左)とグレン・パウエル Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

フィルムストックに関して、ミンデルは日中の屋外シーンには コダックVISION3 50D カラーネガティブフィルム 5203、車内のシーンには250D 5207、そして低照度や夜間シーンには500T 5219を使用しました。フィルムの現像とデイリーは、制作サービスディレクターのマーク・ヴァン・ホーンの指揮のもとフォトケムで行われ、4Kスキャンはロサンゼルスのカンパニー・スリー社に渡され、同社のシニアカラリストのステファン・ソネンフェルドが最終のカラーグレーディングを担当しました。

「コダックのデーライトとタングステンフィルムは、様々なライティングの状況に柔軟に対応できます。色の再現や深みの点で信頼性が高く、それぞれの相性も抜群です」とミンデルは言います。

「これらのフィルムのもうひとつの長所は、あれこれと光源がミックスしても影響を受けることがなく、むしろ、フレームをより面白く見せられることです」

『ツイスターズ』より、左からデイジー・エドガー=ジョーンズ、アンソニー・ラモス、グレン・パウエル Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「特に夜のシーンでは、影を補い、黒の粒子に微妙なトーンを与えるために、照明にたくさんのジェルフィルターを使いました。デジタルカメラは、特に肌のトーンが含まれる場合、ミックス光をうまく捉えることができません。フィルムでは、照明や美的な選択に関して、はるかに多くの自由度があります。私はフォトケムのチームと数多くの作品を制作してきました。ラッシュの評価に関して、完全に彼らを信頼できると分かっていました」

伝説的な撮影監督である故ダグラス・スローカム(OBC BSC ASC)は、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981、スティーヴン・スピルバーグ監督)の撮影現場で、一度も露出計を使わず、自分の目で適切な露出を見極めていたことで有名です。ミンデルも『ツイスターズ』の撮影中、同じ手法を用いました。

ミンデルは打ち明けます。「コダックのフィルムは何年も使ってきて熟知してますからね。最初の2週間ほど露出計を使ってレンジの感覚を取り戻してからは、どの時間帯でも自分の目だけで露出に必要な光量を見極める自信がつき、おかげでずっと楽になりましたよ」

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『ツイスターズ』の撮影セットにて Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「とはいえ、常に露出計を信頼しろと師匠に厳しく教えられてきましたから、フィルターを何枚もかけた時や、車のガラス窓越しの撮影など露出補正が必要な時は、フォーカスプラーに露出をダブルチェックしてもらいました」

Aカメラとステディカムはジェフ・ヘイリーが、Bカメラはミック・フローリックが担当しました。第2ユニットはクリス・ハールホフが撮影監督を務め、カメラオペレーターのジョン・コナーと共に、大がかりなスタントや外からの車の撮影を担いました。

「『ツイスターズ』のカメラチームは計り知れない力を持っています。知恵と知識にあふれる真のエースです」とミンデルは力説します。「私は力を合わせて映画を作るプロセスが大好きです。カメラチームにアイザックと一緒に撮影を進める自主性と信頼を与えることができると分かっていたので、私自身は照明や全体の流れをまとめることに専念でき、迅速に次のセットアップに移る用意ができました」

『ツイスターズ』より Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「本作は本格的なアクションアドベンチャー作品ですから、カメラにも動的エネルギーが欲しかったのです。そこで、ショットの終わりに、ある種の句読点をつけることにしました。アイザックが編集で次のシーンやカメラアングルにつなげられるようにです」

「動きを想定して、使えるものはすべて使いました。ドローン、ヘリコプター、クレーン、追跡車、“ビスケット・リグ”、レールに載せたドリー、ステディカム、そして手持ちカメラ。ただし、アナモフィックで広い視野や風景を撮る時に地平線を動かしてはいけないということは、チーム全員がよく分かっていました。映像がシーソーのように動いては、観客が不快になるからです」

ミンデルは、劇中の車のシーンの撮影に使用したAllan Padelford Camera Cars社の屈強な”MTVインサートトラック"が特に気に入っています。「猛獣ですよ。シーンに応じて、30フィートのスーパーテクノクレーンを後ろに乗せて撮影したり、カメラを側面に取り付けたり、さらには後部にクルー全員を乗せたまま、劇中車をけん引することもありました」

『ツイスターズ』の撮影現場にて、右がリー・アイザック・チョン監督 Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

彼はこう付け加えます。「物を壊すのは好きじゃないんです。特にそれがビンテージの貴重なアナモフィックレンズならね。なので、ドローンから撮影する時は球面レンズを使いました。これらの映像は後からアナモフィックのルックに似せて調整されました」

この他、カメラと照明部門で忘れてはならないのは、キーグリップのジョー・マカルーソとガファーのジョン・ヴェッキオ、照明プログラマー兼オペレーターのジョナサン・ハギンス(ICLS)です。

「長年仕事をしてきて学んだのは“スターのライティングは可能な限りセクシーでなければならない”ということです」とミンデルは語ります。「そのために私が使うツールは一般的に白熱灯です。メーカーがどう言おうと、LEDは肌のトーンを最大限コントロールするのには適していないというのが私の見解です。それに加えて、一般的なLEDのソフトライトは形状をうまく作ることができなません。だから“俳優にLEDは厳禁”と言っています」

ケイト役のデイジー・エドガー=ジョーンズ Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「そういった理由で、我々の道具の中には時代遅れと思われそうな機材が入っています。Dinoライト、20Ks、5Kモールビーム。しかし、LEDと古い照明をミックスすることで、特に夜のロケ撮影時にルックのオプションが増え、私たちも楽しめるのです」

「欠点はあるものの、風雨に耐えるように作られている点はLEDの長所です。防水性、あるいは耐水性があるおかげで、我々は猛烈な気象条件でも照明を失わずに済みました」

ミンデルは本作の多くのアクションシーンを撮影する前には、必ずSFXやVFXのスーパーバイザーと相談し、協調して仕事をしたと言います。

ハビ役のアンソニー・ラモス Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

「スコット・フィッシャーはスタントと物理的特殊効果を組み合わせる天才です。彼はSFXチームと協力し、圧縮空気を使ってさまざまな物体やがれきを吹き飛ばしたり、回転させたりする装置を製作しました。また、キャストやスタッフの安全面を確保しながら、風、雨、雹、煙などをもっともらしく劇中車にぶつける方法も考案しました」

「このプロダクションには、作品の売り上げに貢献する最高レベルのシームレスなVFX が使われています。私は本作の主要VFXベンダーのひとつであるILMのチームと長年親しくしていますが、彼らが特定のシーンを実現するために必要なことなら、どんな撮影面の手助けも惜しまない熱烈な支持者です」

「私と同様、ILMのVFXスーパーバイザー、ベン・スノウも長年にわたりアナログからデジタルへの移行を経験しており、彼はスキャンしたフィルム固有のテクスチャーや粒子を最適化して、デジタル/CG効果をアナログの領域に融合させる方法を正確に分かっています。このプロセスには寛容さがあり、写真のようにリアルで生き生きとした、もっともらしい仕上がりになります」

『ツイスターズ』より Photo by Melinda Sue Gordon/Universal Pictures, Warner Bros. Pictures and Amblin Entertainment.

ミンデルはこう結論づけます。「『ツイスターズ』にはアクション、冒険、様々な天候が詰め込まれており、IMAX版は超感覚的な体験になるでしょう。この作品で最も重要な要素のひとつはフィルムストックです。それがいかにクリエイティブなプロセスにおいて適切で不可欠な存在であり続けているのかということです。観客が楽しめる、個性的で素晴らしいルックの作品を作る助けとなるアナログのオプションを、映画製作者に提供し続けてくれているコダックには本当に感謝しています」

(2024年7月1日発信 Kodakウェブサイトより)

『ツイスターズ』

 (8月1日より全国公開中)

 製作年: 2024年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: Twisters

 配 給: ワーナー・ブラザース映画

​ 公式サイト:  https://wwws.warnerbros.co.jp/twisters/

予告篇
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