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2024年 12月 4日 VOL.236

撮影監督ジェイク・ミッチェルがコダック 16mmフィルムで遊び心を付け加えたウェストン・ラズーリ監督作『リトル・ワンダーズ』

Photo credit: Anaxia

2023年に、権威あるカンヌ国際映画祭でプレミア上映されたウェストン・ラズーリ監督の『リトル・ワンダーズ』は、撮影監督のジェイク・ミッチェルによりコダックの16mmフィルムで撮影され、60年代、70年代、そして80年代の古典的な子供向け冒険映画のようなノスタルジックな感情を呼び起こす作品です。

このデジタルの時代、ウェストン・ラズーリ監督のフィルム撮影への揺るぎない思い入れは目を引きます。多くの短編作品とミュージックビデオの制作において手腕を発揮してきた彼は、再び自分の信念を貫く勇気を示し、長編デビュー作となる『リトル・ワンダーズ』を制作しました。

この映画はワイオミング州を舞台にした現代のおとぎ話であり、代表的な子供向け映画の冒険心に共鳴する作品です。3人のやんちゃな子供たちが、母親の好物のブルーベリーパイを手に入れようと出かけます。一見すると簡単なお使いなのですが、それが壮大な冒険へと変わっていくのです。密猟者に捕らえられ、子供たちは魔女や頭の切れる猟師と戦いを繰り広げます。そして試練の最中に優しい妖精と友達になり、勝利を収め、魔法のような友情を永遠に大切にすることになります。

ラズーリ監督が目指したのは、“暗くても鮮やかなコントラストがある、忘れ去られた60年代や70年代のディズニー実写映画”を彷彿とさせる作品でした。「カメラはスーパー16のARRI 416使用し、屋内外どちらのシーンについても、主にコダック VISION3 50D カラーネガティブフィルム 7203と、200T 7213を使いました」と、本作の脚本を書き自ら出演もしているラズーリ監督は話します。「具体的には、屋内のシーンには200Tの方が好ましく、明るい屋外のシーンには50Dを選ぶ傾向にありました」

Photo credit: Anaxia

彼はこのフィルムというメディアを用いることによって、特に様式化されたおとぎ話のような世界を表現するうえで、自信を持って自らの作品のビジョンを実現できると確信しています。

「フィルムでの撮影は本当にすべてを完成させてくれます」と彼は続けます。「創造的な決断、演技、制作、そしてデザインなどのすべてをまとめてくれるのです。フィルム撮影は体験が丸ごと売りになります。デジタル撮影は優秀ではありますが、演技や衣装、アプローチやデザインにおける創造的な決断において、より欠点が目立つように感じています。私には本物だという感じがどうしてもしないのです」

ラズーリのフィルム愛は、撮影監督のジェイク・ミッチェルにも共通しています。「怖さもありますが、フィルムで撮影したルックの方が純粋に好きなのです」と彼は話します。「デジタルではまだ実現できない技術的な領域もありますし、それは技術がさらに進歩したあとも変わらないと思います。また、フィルムに当たった光は二度と再現することができないという哲学的な側面も好きです。まさに光の粒子が被写体に当たって反射する瞬間を捉え、一種のアナログ的な表現ができるのです」

Photo credit: Anaxia

ミッチェルは当初、“そのシャープさ”を求めてARRIのウルトラプライムレンズを使っていましたが、最終的にはCanon 6.6-66mmのズームレンズに切り替えました。「キヤノンはウルトラプライムと比べると柔らかさがありますが、16mmのカメラに使用できるズームレンズの中ではシャープな方です」と彼は話します。これは20日間という厳しい撮影スケジュールで、毎日限られた時間の中で子供たちと仕事をするという課題を考慮してのことでした。

彼はこう続けます。「スピードが重要であったため、ウルトラプライムの使用は最小限にとどめ、撮影初日と後半の数シーンにだけ使用しています。制作のほとんどを通して、私たちはズームレンズに大いに助けられました。ズームレンズであれば、撮影の準備段階でフレーミングが適切でないと感じた場合でも簡単に被写体に寄ったり引いたりできるからです」

ミッチェルはこのアプローチが作品の展開にぴったり合っていて、まるで演劇のような雰囲気を出してくれると言います。「私たちはワイドショットで、マスターショットと全体のアクションを捉え、そして時には単にシンプルにするために、遠くからズームインして登場人物のセリフを拾っています。これは効率のよくない古い手法なのかもしれません。でも不思議なことに、この手法のおかげで一種の演劇のようなスタイルが生まれました。意図していたわけではありませんが、結果的にうまく働いたのです」

Photo credit: Anaxia

『リトル・ワンダーズ』が1:2.39ではなく1:2.35のシネマスコープのアスペクト比にしているのは、高さに少し余裕を持たせられるからです。「これにより、撮影した映像をトリミングしすぎることなくワイドスクリーンのように見せることができました。ウェストンと私がそのアスペクト比を選んだのは、ストーリーテリングに重きを置くためです。水平線が強調され、より広いスペースを確保することができます。私たちは、このアスペクト比が映画の全体的な叙事詩的性質を強めてくれることに気付いたのです」

20日間にわたる撮影は、主にラズーリの故郷であるユタ州パークシティで行われました。すべてのシーンがそこで撮影されましたが、それ以外に半日だけユタ・フィルム・スタジオで撮影しました。とりわけ夜間の車内や子供たちが警察車両とやり取りするシーンについては、スタジオ内のセットで撮影が行われました。

「私たちは子供たちと撮影ができる時間に神経を使わねばなりませんでした。そして、すべての登場人物が集まる時がありました」とミッチェルは言及しています。「皆いくつかのセリフがあり、スタントや銃を使い、走ったり追跡したり、瓶を投げたりするなどの様々な要素がありました。コミュニケーションが鍵でしたが、私たちはうまくやり遂げました」

Photo credit: Anaxia

クリエイティブ面においてラズーリは、大抵において撮影が最も厄介なシーンとは、ひとつのシーンに多くの俳優が登場する時で、適切な尺やどの程度のブロッキング(俳優の動き)が必要か見極めるのが難しいと言います。

「クライマックスには多くの動きを伴う長いシークエンスがあります」と彼は説明します。「私自身も本作で小さな役を演じており、そこにも大変さがありました。しかし、カメラが1台しか使えないほど低予算の映画なので、様々な角度からできる限り多くの情報を捉える必要があったのです」

照明へのアプローチについてミッチェルはこうコメントしています。「照明に関して、私はかなり自由に選ぶことができました。本作のファンタジー的な性質のおかげで、私たちには自由裁量の余地があったということもあります。主に使用したのはLEDとHMIですが、例外として “ホール・オブ・フォーチュン”のシーンの最後にはタングステンや白熱灯を使っています」

(2023年11月21日発信 Kodakウェブサイトより)

(本記事は「British Cinematographer」に初掲出されました)

『リトル・ワンダーズ』

 (10月25日より全国公開中)

 製作年: 2023年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: Riddle of Fire

 配 給: クロックワークス

​ 公式サイト:  https://klockworx.com/littlewonders

予告篇
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