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2024年 12月 9日 VOL.237
撮影監督アダム・ストーンがコダック 35mmで撮影し、強い絆で結ばれた60年代のモーターサイクル・ギャングの内面を捉えた『ザ・バイクライダーズ』
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ジェフ・ニコルズ監督作『ザ・バイクライダーズ』より、ベニー役を務めるオースティン・バトラー Photo courtesy of Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
躍動するエンジン、ガソリンの煙、革ジャン、グリス、汗、そして反抗と自由に対するふてぶてしさがストーリー全体に広がる『ザ・バイクライダーズ』。本作は、ジェフ・ニコルズが監督した60年代のモーターサイクル・クラブ、架空名「ヴァンダルズ」の軌跡を描いた映画です。
この映画が追うのは、陰気な不良少年ベニーの恋人であるキャシーです。ベニーの師匠でヴァンダルズのリーダーでもあるジョニーに率いられ、彼女はバイカー生活を送ることになります。クラブが地元のアウトサイダーたちのたまり場から暴力と犯罪がはびこる危険な裏社会へと変化していくにつれて、ベニーはキャシーとクラブへの忠誠心のどちらを選択するか迫られます。
本作はフォト・ジャーナリストのダニー・ライオンが1967年に発表した同名の白黒写真集と音声インタビューに着想を得て、1935年にイリノイ州マクックで設立された世界最古のアウトロー・モーターサイクル・クラブ、アウトローズMCの軌跡を描いています。
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『ザ・バイクライダーズ』の撮影現場にて、(左から)撮影監督のアダム・ストーン、ベニー役のオースティン・バトラー、ジェフ・ニコルズ監督 Photo by Kyle Kaplan/Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features. All Rights Reserved.
ニコルズが脚本と監督を手掛け、長年の協力者である撮影監督アダム・ストーンがコダック35mmフィルムを使用し、ワイドスクリーンのアナモフィック撮影をした本作の制作費は4000万ドルで、キャシー役にジョディ・カマー、ベニー役にオースティン・バトラー、ジョニー役にトム・ハーディ、そしてダニー・ライオン役にマイク・フェイスを起用しています。
この映画は2023年のテルライド映画祭のオープニング作品として初公開され、ニコルズの演出における生々しいリアリティ、カリスマ性のあるキャスト、ストーンの撮影における場所や色調のセンスが批評家から絶賛されました。
「『ザ・バイクライダーズ』はジェフが10年近く温めてきたプロジェクトでしたが、2022年まで脚本はありませんでした」とストーンは言います。ストーンとニコルズはノースカロライナ芸術大学の同期で、この2人による作品『Shotgun Stories』(2007)、『テイク・シェルター』(2011)、『MUD マッド』(2012)、『ミッドナイト・スペシャル』(2016)、『ラビング 愛という名前のふたり』(2016)もすべて、コダック35mmフィルムで撮影しています。
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『ザ・バイクライダーズ』の撮影現場にて、撮影監督アダム・ストーン(左)とジェフ・ニコルズ監督 Photo by Kyle Kaplan/Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features. All Rights Reserved.
「このプロジェクトはダニー・ライオンのアウトローズMCについての写真集を参照するところから始まったのですが、これは『ラビング 愛という名前のふたり』の時と同じです。その時、私たちはグレイ・ビレットが1965年にライフ誌の依頼で撮影したフォトジャーナリスティックなスチール写真を参考にしました。それらの写真は私たちの視覚スタイルの試金石となるほど強烈で、作品内でいくつかの場面を再現しました。同様に、ダニー・ライオンの写真集は『ザ・バイクライダーズ』の物語を構築するにあたって、イースターエッグのような驚きの写真を私たちに提供してくれたのです」
ストーンはこう付け加えます。「最初に話し合ったことのひとつは、白黒で撮影するか否かでした。ダニー・ライオンの写真集に掲載された写真の大半は白黒だったからです。私はこの作品を白黒フィルムで撮影したかったのですが、ジェフはカラーの方がもっと観客に受け入れられ、人間的なコミュニケーションが図れると考えて、カラー撮影を勧めてきました」
『乱暴者(あばれもの)』(1953、監督ラズロ・ベネディク、撮影監督ハル・モーア ASC)や『イージー・ライダー』(1969、監督デニス・ホッパー、撮影監督ラズロ・コヴァックス&ベアード・ブライアント)など、ニコルズとストーンが製作の上で参照したであろうバイカー映画はたくさんありますが、ストーンは次のように述べます。「このような作品の映像における美学は、本作にとっては生々しすぎたり華やかすぎたりすることに気づいたのです。スタントコーディネーター兼バイク乗りのジェフ・ミルバーンは、16mmで撮られたバイカー映画の傑作をいくつか紹介してくれました。また、カリフォルニア州や中西部のバイカーギャングの暗く破壊的な写真も見ました。これらの写真から、爪の間の汚れの程度やバイカーがキャンプのあとに残した焦土など、多くのことを教えてくれました」
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『ザ・バイクライダーズ』より、ベニー役のオースティン・バトラー(左)とジョニー役のトム・ハーディ Photo by Kyle Kaplan/Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
「しかし、視覚的な参考資料が豊富にあったにもかかわらず、本作のルックにおいて最も影響を受け、私たちのストライクゾーンにハマったのはダニー・ライオンの写真集でした」とストーンは説明し、こう付け加えます。「ジェフは、ダニーがアウトローズにインタビューした時のマスター録音テープのコピーを持っていて、それらのテープを聞くことは理解の助けになりました。ジョディはそこから彼女が演じる役柄の発音を習得し、本作の中で完璧に再現しています」
『ザ・バイクライダーズ』を35mmフィルム、ワイドスクリーンで製作したことについて、ストーンはこう語ります。「ジェフはシンプルで明確なストーリーを伝え、できるだけ忠実かつ自然に描きたいと考えていました。私たちがすべての作品をワイドスクリーンで撮影してきたのは、感情を喚起させ、観客を魅了するという基本的な理由からです」
「この話は私たちが同じ映画学校に通っていた頃にさかのぼります。当時はテレンス・マリックのような監督のシンプルなスタイルや、彼のロケ撮影を中心とした美しい作品が16mmや35mmフィルムでどう見えるかという点に大きな影響を受けました。その後、私は『ジョージ・ワシントン』(2000、監督デヴィッド・ゴードン・グリーン)の撮影助監督を務めました。この作品もフィルムで撮影され、ジェフが好きなワイドスクリーンのアナモフィック撮影でした。ジェフと撮った最初の映画『Shotgun Stories』は35mmフィルムでアナモフィックレンズで撮影し、それ以来、視覚的な技法はただの一度も変えていません」
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『ザ・バイクライダーズ』より、ダニー役のマイク・フェイス(左)とキャシー役のジョディ・カマー Photo by Kyle Kaplan/Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
主要な撮影は2022年10月にオハイオ州シンシナティ周辺で始まり、12月後半に40日間の撮影を終えました。ストーンはパナビジョンのパナフレックス・ミレニアム XL2 35mmカメラを使用し、1:2.39 アスペクト比、4パーフォレーションの35mmフィルムで撮影。主力レンズにはパナビジョン Gシリーズのアナモフィックレンズを用いて、より焦点距離の長いパナビジョン Tシリーズのレンズを追加で使用しました。カメラとレンズのパッケージは、ロサンゼルスのウッドランドヒルズにあるパナビジョンから提供されたものです。
『MUD マッド』を撮影して以来ずっとGシリーズのレンズを使っています」とストーンは言います。「コントラストに優れ、グレアに耐性があり、他のアナモフィックレンズより収差が抑えられています。ジェフと私にとってすばらしい仕事をしてくれるレンズで、フィルムで撮影する際、人間の視覚を模倣するのに優れていて、特に顔の肌色の移り変わりにおいて効果を発揮します。また、バイクのヘッドライトや他の反射光源から、映像に見事な水平フレアを発生させられることも分かっていました」
ストーンが撮影した他の人気作品と同様、彼は物語を捉えるのにコダック VISION3 250D カラーネガティブフィルム 5207と500T 5219を選択しました。「レンズと同じように、これらのフィルムも人間の目で見たとおりに肌色を描写します。直近の数本の作品においても、コダックのデーライトとタングステンといった全く同じ組み合わせのフィルムを使用しています」
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『ザ・バイクライダーズ』より、ベニー役を務めるオースティン・バトラー Photo courtesy of Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
「私にとって250Dはこれまでで最も美しいフィルムです。人物を撮るのに本当に優れているのです。薄暗い屋内であっても、私はできるだけこのフィルムを使いました。ベニーが酒場から追い出されるオープニングのシーンや、のちにその酒場でヴァンダルズが集うシーンなどです」
「もちろん500Tは低照度や夜間のあらゆる場面における主力のフィルムで、フィルターによる補正をせずに撮影しました。私は撮影後に補正することを好むからです。実際にレンズの前にフィルターを付けることはせず、偏光フィルターすら使用していません。また、撮影中はすべてノーマル露光で、増感現像も減感現像もしませんでした。カメラで行う作業は非常にシンプルで、できるかぎり基本的な範囲に留めています。ヘアメイクや衣装、プロダクションデザインの力で、その時代と場所に連れて行ってもらうのです」
フィルムの現像と4Kスキャンはロサンゼルスのフォトケムで行われ、最終的なグレーディングはCompany 3社のシニアカラリスト、ミッチ・ポールソンが行いました。
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『ザ・バイクライダーズ』より、ソニー役のノーマン・リーダス Photo by Kyle Kaplan/Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
製作の間、ロッド・カラルコがAカメラとステディカムを操作し、最初はディラン・コンラッド、その後にエリック・スワネックがフォーカスを補助しました。追加のカメラが必要になった際は、ケネス・ニール・ムーアがBカメラで撮影し、マシュー・ブリュワーが補助しました。ルディ・コバルビアスはグリップチームを率いて、マイケル・ロイがガファーとして照明を監督しました。
「ヴァンダルズの酒場やケンカ中など複数の人物が登場するシーンを除けば、本作はほぼ1台のカメラで撮影しました」とストーンは言います。「ドキュメンタリー写真家の作品集を基にしており、登場人物の中には非常にワイルドな人物もいるため、私たちのこれまでの作品の多くに比べると、今作では手持ち撮影を多く取り入れています。しかし私たちはカメラ自体に注目が集まることについては常に慎重な姿勢を取っており、奇をてらいすぎたり揺れすぎたりしないよう気をつけました。ジェフにとってカメラの視点とは、常に登場人物と一体となって、自然な方法で彼らを観察するものです」
自然さを追求することは照明に対するストーンのアプローチの基本でもありました。「撮影に入る前には、建物や部屋、屋外の風景など、その作品に合う環境やロケーションを探します。そこに俳優がいるとリアルに感じられ、ストーリーを伝えるのに役立つ場所です。実際に撮影することになった際に、照明条件が複雑になるか単純になるかは考慮しません。例えば、キャシーとベニーの約3メートル四方の寝室やヴァンダルズの酒場のような場所ですね」
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『ザ・バイクライダーズ』より、キャシー役のジョディ・カマー(左)とベニー役のオースティン・バトラー Photo courtesy of Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
「『ザ・バイクライダーズ』では従来の照明器具とLEDライトを組み合わせました。ヴァンダルズの酒場で夜の屋外撮影をした時は、20Kの照明をいくつかリフトに取り付け、適切な照度を与えるためにクロスライティングを行い、見事な全体のルックを作り出しました。また、同じセットに街灯としてCreamsource Vortexを追加することもよくあります」
「酒場の中は当然暗いので、複数のARRI スカイパネル S360-Cを使って窓から差し込む光を酒場の奥まで広げました。主要キャストのために美しいライティングにすることには特にこだわらず、バックライトもありませんでした。役者を照らす明かりは有機的かつ簡素なものが多く、その他の視覚的なストーリーテリングとよく調和していました」
ストーンによると製作中の大きな挑戦のひとつは、一斉にバイクに乗る登場人物たちと観客との間に人間的なつながりを醸し出すことだったと言います。
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『ザ・バイクライダーズ』より、キッド役のトビー・ウォレス Photo by Kyle Kaplan/Focus Features. Ⓒ 2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
「バイクのスタントシーンの撮影ではクレーンカメラを何度か使用しました。しかし、集団で隣り合って走行するバイカーたちをカメラでクローズアップする方法を見つけるには少し時間を要しました」と彼は説明します。
「e-バイクや本物のバイクに役者とカメラを乗せていろいろ撮影してみましたが、うまくいきませんでした。役者を三輪バイクに乗せて固定されたカメラで撮影したものの、これも失敗でした。私たちは繰り返し様々な方法を試した結果、役者が三輪バイクに乗り、カメラオペレーターのディランが同じバイクのタラップのような部分に縛り付けられ、役者から約1メートルの距離で40mmレンズを使って手持ち撮影する手法に至りました。そうすることで顔や表情を捉えると同時に、バイクに乗っている感覚をとてもリアルな雰囲気で撮影できました」
『ザ・バイクライダーズ』の撮影体験を振り返ってストーンはこう強調します。「フィルムで撮影する時、現場には敬意の念があります。役者とスタッフはフィルムが特別な芸術的メディアであり、全員が最高のパフォーマンスを発揮する必要があることを理解しているのです。私たちの撮影現場はきちんとした分別があり、とても穏やかです。ジェフは役者たちに焦点を当て、彼らがカメラの前でやるべきことをするために安全な場所を提供しています」
「視覚的には、撮影された映像美のニュアンスや自然さが大好きです。他の作品、特にデジタル撮影の作品とは一線を画していて、何か特別なものを作っているという実感があります。フィルムは本当に特別です。願わくば、これからもずっと存在し続けてほしいです」
『ザ・バイクライダーズ』
(11月29日より全国公開中)
製作年: 2023年
製作国: アメリカ
原 題: The Bikeriders
配 給: パルコ
公式サイト: https://www.universalpictures.jp/micro/the-bikeriders