2024年 12月 13日 VOL.238
コダック 35mmフィルムと最新のLEDボリューム技術で撮影したAmazonプライムのSF大作『フォールアウト』
『フォールアウト』より Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
4パーフォのコダック 35mmフィルムとアナモフィックレンズによるワイドスクリーン撮影、約3,300のVFXショット、最新のLEDボリューム技術を駆使して実写化されたAmazonプライムのSFシリーズ『フォールアウト』は、公開してすぐに視聴者数6,500万人を突破し、世界170ヶ国以上で配信ランキング1位を獲得する大ヒットとなりました。
同名の大人気ロールプレイング・ビデオゲームを原作とする『フォールアウト』は、脚本、演出、そして原作に忠実であることから、評論家やゲームファンの間で絶賛されています。中には、ゲームを原作とした史上最高の映像化作品のひとつだと評価する声もあります。このように大成功を収めた本作は、公開後まもなくシーズン2の製作が決定、2024年秋に撮影が開始される予定です。
全8話で構成される本作は、壊滅的な核戦争後の世界を舞台に、レトロフューチャーな社会に住む生存者たちが資源戦争に巻き込まれていく様子を描いています。大惨事から200年後、ルーシーという名の若い女性は、Vaultと呼ばれる地下シェルターから抜け出し、荒廃したかつてのロサンゼルス、危険で容赦ないウェイストランドに足を踏み入れ、その地に住む反社会的勢力のレイダーに誘拐された父親を捜しに行きます。道中、彼女はBrotherhood of Steel(BOS)に所属する青年マキシマスや、伝説の賞金稼ぎであるグールと出会いますが、どちらも謎に包まれた過去と決着をつけるべき課題を抱えていました。
『フォールアウト』より Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
主要キャストはエラ・パーネル、アーロン・モーテン、カイル・マクラクラン、モイセス・アリアス、ゼリア・メンデス=ジョーンズ、ウォルトン・ゴギンズ。製作総指揮は35mmフィルムで制作されたHBOのSFシリーズ『ウエストワールド』で共同クリエイターを務めたジョナサン・ノーランとリサ・ジョイ。さらに、ゲーム『Fallout』を制作するベセスダ・ゲームスタジオのトッド・ハワードが加わることで、ノーランは『Fallout』の世界観に忠実である限り、自由にテレビシリーズを制作することができました。
「私は脚本に惚れ込み、ビデオゲームのプレイスルーを見ました。そして、すぐに本作が非常に想像力豊かなストーリーであることがわかりました」と撮影監督のスチュアート・ドライバーグ(NZCS ASC)は言います。彼は最初の3話半で撮影監督としてノーランと協力し、その後、テオドロ・マニアチ、アレハンドロ・マルティネス、ダン・ストロフがシリーズを通して撮影監督を引き継ぐという手法を確立しました。
『フォールアウト』の撮影監督スチュアート・ドライバーグ(NZCS ASC) Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
「ジョナサンと仕事をするのは初めてでしたが、早い段階で彼がシネマトグラフィーで作品の様式美を作り出すことに興味がないことがわかりました。レトロフューチャーなアール・デコ調の衣装、小道具や大道具の見た目、私たちが下見したさまざまなロケ地そのものの特性が作品の美しさを作り出しています」
「彼はストレートでシンプル、かつ映画らしい画を好み、35mmフィルムの4パーフォとアナモフィックレンズによる1:2.40のワイドスクリーン撮影を望みました。そして、私はその壮大かつ創造的な決断を大いに支持しました」
ドライバーグはフィルムでの撮影に精通しています。『ピアノ・レッスン』(1993)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)、『イーオン・フラックス』(2005)、『LIFE!/ライフ』(2013)、『gifted/ギフテッド』(2017)、『さよなら、僕のマンハッタン』(2017)など、多くのアナログフィルム作品を手掛けています。
ルーシー役のエラ・パーネル(中央)と撮影監督スチュアート・ドライバーグ(右) Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
「フィルムでの撮影は大好きです。フィルムで撮影された映像の美しさは、今も私の心を揺さぶります。VFXを多用し、さまざまなシーンにLEDボリュームを使用することは承知していましたが、撮影を始めるのが待ち遠しかったです」
「デジタルポストプロダクションやVFXについて、初めからデジタル撮影に傾倒するような議論はいくらでもできます。しかし、『ウエストワールド』をはじめ、長年ジョナサンと一緒に仕事をしてきたVFXスーパーバイザーのジェイ・ワースがフィルム撮影にとても慣れていたので、そのような問題は一切ありませんでした」
「私はLEDボリュームをデジタル撮影でしか使ったことがなかったのですが、ジョナサンは『ウエストワールド』の後半のエピソードでフィルムを使った実験をしていて、その結果から35mmでも仕上がりが美しいことを初めから確信していました」
原作のビデオゲームのプレイスルーをじっくり観る以外には、作品の美的ルックに関して特に際立ったビジュアル資料はなかったとドライバーグは言います。しかし、「ジョナサンの頭の中に少しでも入り込んで、彼の美的嗜好を理解する」ために、『ウエストワールド』の全3シーズンを視聴したことを認めています。
『フォールアウト』より Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
「基本的に私たちは白紙の状態から始めました。資料を見るよりも、原作のビデオゲームに出てくる衣装や武器、さまざまな環境下にある建築物などを把握し、尊重することに時間をかけました。ベセスダ・ゲームスタジオが原作ゲームのCAD図面を提供してくれ、プロダクションデザイナーのハワード・カミングスと衣装デザイナーのエイミー・ウエストコットが、私や他のスタッフがロケハンの際に撮った写真と合わせて、それを本作のコンセプトアートに取り入れました」
『フォールアウト』についてドライバーグは、テストと準備に数ヶ月間を費やした後、ノーランが指揮を執る中、2022年7月から9月にかけての50日間にわたって担当エピソードを撮影しました。シリーズの主要撮影は2023年3月に終了しました。
主人公のルーシーが通過するVaultのトンネルとウェイストランドへの出口の大道具は、ブルックリンにあるスタイナー・スタジオで製作されました。また、ロングアイランドのベスページにあるゴールドコースト・スタジオの大型LEDボリュームのステージでは、Vaultの大草原を思わせる農場風景や、BOSの兵員輸送機でありガンシップでもあるベルチバードの飛行シーンが撮影されました。ベルチバードのシーンで使ったLEDボリュームの背景は、ユタ州ウェンドーバー空軍基地周辺でデジタル撮影されました。
『フォールアウト』より Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
東海岸では、ブルックリン陸軍ターミナル、ニューヨークのウィドージェーン鉱山、サウス・ジャージーにある政府余剰品の廃品置き場、ユタ州では、ウェンドーバー空軍基地に隣接する塩原と廃墟がロケ地となりました。ウェイストランドのシーンは、ナミビアにある、かつての採掘場がゴーストタウンと化した町、コールマンスコップや、昔から最近に至るまでの難破船が点在する荒涼とした地域として悪名高いスケルトン・コーストで撮影されました。
ドライバーグは、撮影の主軸に35mmカメラのアリカム STとLTを選択し、高速撮影にはアリフレックス 435を、ドローン撮影には小型で軽量のアリフレックス 235を使用しました。LEDウォールプレートは、アリ・アレクサ LFのカメラアレイを使って撮影しました。レンズはHawk Class-X 2xフロントアナモフィックを選択。東海岸とナミビアでの撮影は、TCSニューヨークがカメラとレンズのパッケージを提供、ユタでの撮影はKeslow Cameraがサポートしました。
「私はHawkのアナモフィックレンズのファンなんです」とドライバーグは熱く語ります。「被写界深度、フォールオフ、ボケがすばらしいので、登場人物を特定の場所に配置、または孤立させることができます。フレアもすばらしく、ルーシーが初めてVaultの扉からオレンジ色の砂浜のようなウェイストランドへ出てくるシーンは、ナミビアで太陽が沈みかけているときに撮影し、その特性を存分に生かしました」
『フォールアウト』の撮影現場にて Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
ドライバーグの撮影クルーは多くが自分の任務が終わった後も現場に留まり、クリス・ハールホフとロバート・“スープ”・キャンベルがAカメラとステディカムを、クリス・レイノルズ、ヴィンス・J・ヴェニッティ、サンディ・ヘイズ・ピアーレ・フォルトナトが必要に応じて追加カメラを担当しました。また、チャーリー・マロキンがキーグリップ、クリストファー・F・グラネトがキーリギンググリップ、ビル・アルメイダ(ICLS)がガファーを務めました。
「大半は3台のカメラで、時には4台のカメラで撮影しました。ワイド、クローズ、カバレッジなど、シーンに必要なほとんどのショットをできるだけ少ないテイク数で撮影できるようにするためです。しかし複雑なシーンでは2~3種類の異なるカメラ配置で撮影することもありました」とドライバーグは言います。
「ドリーやステディカムだけでなく、さまざまな伸縮式クレーンをビジュアルボキャブラリーに取り入れましたが、手持ち撮影は戦闘シーンなど特定のアクションに限定しました。スタッフが引き継がれたことで、私が抜けた後に担当した撮影監督たちも、設定されたスタイルで撮影することができ、最初の3話で私たちが作り上げたルックを見事に再現することができました」
『フォールアウト』の撮影現場にて Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
ドライバーグは、『フォールアウト』の撮影に3タイプのコダック VISION3 カラーネガフィルムを使用しました。Vaultの内部、その他すべての夜間または低照度シーンやLEDボリュームを使ったシーンには500T 5219、日中や昼の光の中での撮影の大部分には50D 5203、そして250D 5207は夕方や薄暗い時間帯に撮影時間を延長するために使用されました。フィルム処理と4Kフィルムスキャンはロサンゼルスのフォトケムで行われ、シニアカラリストのコスタス・セオドシアスが最終的なカラーグレーディングを担当しました。
「私は幸運にも、キャリアを通じてコダックのフィルムストックの進展を追い続けてきました」とドライバーグは話します。「デーライトフィルムの演色性、彩度、コントラストは常に印象的です。さまざまな時代を経て洗練されてきた結果、50Dと250Dは非常によく調和しますし、500Tともよく調和します」
「500Tはすばらしい製品です。私は低照度または夜間のシーンのほとんどを500T 5219を使って問題なく撮影してきました。しかし、LED器具のTITAN TUBEを設置したり、ARRI SkyPanelを仕込んだりして照明を補っても、まだ少し露出が足りないことがありました。このような場合は、500TをASA感度800にしてラボで1段増感現像するという、長年使ってきた技を駆使しました。これは撮影現場のスピードを少し上げてくれる、とても満足のいく手法です」
LEDボリュームのステージに置かれた兵員輸送機のベルチバード Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
『フォールアウト』にはデジタルVFXがふんだんに盛り込まれていますが、ドライバーグはそのシームレスな統合性においてフィルムの価値を疑うことはありませんでした。「デジタルVFXをフィルムで撮影した映像に取り入れる場合、アナログフィルムの質感には視覚的に映像を滑らかに仕上げる何かがあり、それは今でも他の方法ではなかなか再現できません」
しかし、高さ約20フィート(6メートル)のスタジオ3面をU字型に取り囲む数百枚のLEDパネルで構成されたLEDボリュームを使ったフィルム撮影は、撮影監督として全く新しい経験でした。LEDウォールや舞台照明から放たれる光の強さと質の適切なバランスを得るため、また、35mmフィルムで満足のいく映像を撮るため、ドライバーグはデジタルシネマカメラを使い、正確な露出と質的な基準を提供しました。
彼は次のように説明しています。「LEDウォールをフィルムで撮影する際の課題は、明らかに撮影現場で最終的な仕上がりを即座に見られないことです。さらに、LEDパネルから光の質、色温度、輝度を判断し、従来の前景照明とのバランスをとる能力が不可欠です。テストの初期段階では、私たちはそのバランスに満足できませんでした」
ナミビア、スケルトン・コーストでの撮影風景 Photo Stuart Dryburgh NZCS ASC.
「そこでテスト段階では、私の信頼するDITのカジム・カライズマイログルが私とLEDウォールの運営チーム、そして照明クルーとの橋渡しを務めてくれました。彼は1台のソニー VENICEを現場に持ち込み、Hawkのアナモフィックレンズと、フィルムをエミュレートするLUTを使用して、事前に承認された背景プレートに対して撮影を行いました。おかげで俳優の肌色やベルチバードのような小道具に注意を払いながら、フィルムカメラの実際の露出を得て、最終的には完璧な映像を作り上げるために、さまざまな光源間の輝度とカラーバランスをすばやく確立することができました」
「ビル・アルメイダと照明チームは、「Ring of Fire」と名付けられたARRI SkyPanel S360とS60にタングステン 20Kを散りばめたアレイをLEDウォールの上部に設置し、ステージにはアンビエントライトや適切な指向性ライトを配置しました。また、上部のグリッド照明にもS60スペースライトを追加し、その下に巨大なシルクを設置して、照明オペレーターがコントロールすることで空を演出しました。さらに、すべてのLEDパネルは、Unreal Engineプレートからの色情報を受信してエミュレートすることができました」
「その結果、実際に35mmフィルムで撮影する際には、自分たちが選んだフィルムに対してどのように光を当てて露光したらいいか、ラボから戻ってきたラッシュがどのような仕上がりになるかについて、私たち全員が非常に良い知識を持つことができました」
『フォールアウト』より Ⓒ 2022 Amazon Content Services LLC.
「完成した映像は本当にすばらしいものだったと言うべきでしょう。デジタルカメラのベイヤー配列とは対照的に、フィルムはランダムな粒子の集まりなので画像に優しさを与え、仕上がりを柔らかくし、物事をよりリアルに見せてくれます」
LEDウォールを使って撮影する際にさらに考慮すべき点として、ドライバーグは次のように述べています。「モアレパターンを避けるためには焦点距離や俳優と小道具の位置に注意が必要です。とはいえ、フィルムのランダムな粒子構造がモアレパターンの多くを解消すること、それとLEDピクセルからの光をブレンドするのに役立つ柔らかいエッジを持っていることから、問題になることはありませんでした」
ドライバーグはこう締めくくります。「すばらしい狂気的な脚本、すばらしいロケ地、すばらしいキャスト、そしてすばらしいチームのおかげで、とても楽しい撮影になりました。ジョナサンとの協働、デザイン、衣装、メイク、VFX、それにLEDボリュームチームとのコラボレーションは本当に楽しいものでした。フィルムは完全に有効な撮影メディアであり、アナモフィックレンズで35mmフィルムに撮影したことは私にとってさらなる喜びで、非常に満足感の高い撮影になりました」
『フォールアウト』(全8話)
(Amazon Prime Videoで配信中)
製作年: 2024年
製作国: アメリカ
原 題: Fallout
配 信: Amazon Prime Video
公式サイト: https://www.amazon.co.jp/dp/B0CN4JC51F/