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2026年 3月 16日 VOL.256

第98回アカデミー賞 作品賞・監督賞含む最多6部門受賞!
ポール・トーマス・アンダーソン監督と撮影監督マイケル・バウマン、アクション大作『ワン・バトル・アフター・アナザー』で35mmビスタビジョンを現代的に再構築

ポール・トーマス・アンダーソン監督作『ワン・バトル・アフター・アナザー』で、追われる身となった元革命家ボブを演じるレオナルド・ディカプリオ Photo courtesy of Warner Bros.

昨年の『ブルータリスト』でビスタビジョンは再び脚光を浴びましたが(撮影監督ロル・クロウリーが本作でアカデミー賞撮影賞を受賞)、監督のポール・トーマス・アンダーソンと撮影監督のマイケル・バウマンは、不条理な政治アクション映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』にこの35mm/8パーフォレーシの横長フォーマットを採用し、その可能性を映画界の新たな高みへと引き上げました。

実はアンダーソン監督は、10年以上も前からビスタビジョンの採用を模索してきました。まず『ザ・マスター』(2011)で、かなり大型のヴィンテージカメラを使ってテストしましたが、実用面での制約が明らかになり、最終的に65mm撮影に切り替えています。

しかし監督は本作で、ついにビスタビジョンをうまく活用することに成功しました。レオナルド・ディカプリオが演じる元革命家のボブは、薬物漬けの隠遁生活を過ごしていましたが、変態軍人ロックジョー(ショーン・ペン)にさらわれて行方不明になった10代の娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)を見つけ出すため、16年ぶりに戦いの舞台に戻ることになります。

ビスタビジョン(1950年代にパラマウントが開発し、IMAXの前身となったフォーマット)は、トマス・ピンチョンの小説『ヴァインランド』に着想を得た『ワン・バトル・アフター・アナザー』のスケール感とエネルギーに完璧にマッチしていました。作中の壮大な風景やスリリングなカーチェイスシーンは、大きなネガ面積、高解像度、鮮明な画像、低減された粒状感といった恩恵を確実に受け、1:1.50のアスペクト比の中で、強い没入感を伴う印象的な映像となりました。

撮影にはコダック VISION3 500T 5219、250D 5207、200T 5213が使用されました。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』の撮影現場にて、ポール・トーマス・アンダーソン監督とレオナルド・ディカプリオ、ベニチオ・デル・トロ Photo courtesy of Warner Bros.

「この作品は(ビスタビジョンを活かせる)とても大きなキャンバスだと思います」と、バウマンは語ります。バウマンは、アンダーソン監督の『ザ・マスター』、『インヒアレント・ヴァイス』の照明技師としてキャリアをスタートさせ、その後、『ファントム・スレッド』で照明兼キャメラマンを務め、さらに『リコリス・ピザ』ではアンダーソン監督と共同で撮影監督を担当しました。「私たちは『ファントム・スレッド』以来、映像の美学について話し合ってきました。映像には質感が必要であり、ちゃんと映画らしく見えなければなりません。監督はその点に強くこだわっていましたね」

彼らが最初に手にしたのは、俳優から撮影監督へ転身したジョヴァンニ・リビシ(『ストレンジ・ダーリン』)が所有していた古いボーモント・ビスタビジョンカメラでした。このカメラは丁寧に修復され、本作のAカメラとして使用されました。さらにGEOフィルム・グループから追加で2台のカメラボディが提供されました。

「ジョヴァンニはありとあらゆるものを収集する人で、このカメラは状態が非常に良かったんです」と、バウマンは付け加えます。「パナビジョン社に持ち込んでテストした時のことを覚えています。ポールは“きれいにレストアした1957年式シボレーを泥道で走らせるようなものだ”と言いました。するとジョヴァンニが“これは大事にしまっておく骨董品なんかじゃなく映画を撮るための道具だ。気にせず持って行って素晴らしい映画を作ってくれ”と言ってくれたんです」

パナビジョン社では、ビスタビジョンカメラの大幅な技術的アップグレードが施されました。主な課題となったのは、運用性や保守面の問題、フィルムの連続撮影時間などでした。これらの改良に関してはダン・ササキ(光学エンジニアリング及びレンズ戦略担当上席部長)とガイ・マクヴィッカー(技術マーケティングディレクター)が統括しました。エンジニアリングチームが部品の設計・製造を手助けしてくれたおかげで、カメラの修理やメンテナンスが容易になりました。手持ち撮影、スタジオ、スタビライザーヘッド、空撮など、コンポーネントはすべて用途別に専用設計されていて、一般的な周辺機材も同様に製作されました。また、オペレーターが明るく鮮明な映像を確認できるよう、Aボディ用の試作型ビューファインダーも開発しました。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』の撮影現場にて、(左から)撮影監督マイケル・バウマン、ポール・トーマス・アンダーソン監督、第1アシスタントカメラマンのセルギウス・ナファ Photo courtesy of Yana Yatsuk and Warner Bros.

しかし、ビスタビジョンカメラは動作音が非常に大きいため、特に重要な屋内での会話シーンでは、パナビジョン社のミレニアムXL2カメラを用いたスーパー35で撮影することもありました。

また、ササキ氏の協力で60本以上の球面レンズ一式を特別に提供してもらうことができました。しかし、最終的に使用されたレンズの多くは、ビスタビジョンカメラのミラーやフォーカシングスクリーン機構との干渉を避けるために改良が必要でした。アンダーソン監督は、名撮影監督ゴードン・ウィリスがパナビジョン社のスーパースピードレンズを使って撮影した作品を非常に好んでいたため、以前から同じレンズを使用してきました。ビスタビジョンでもそのルックを求める監督の要求に応えて、パナビジョン社はスーパースピードレンズと同じ光学特性を持ちつつ、ビスタビジョンのアスペクト比に合わせた試作型の単焦点レンズを新たに開発しました。このレンズはフレアの質が良く、肌の色合いも非常に美しく表現されます。

このような技術改良により、“5つの顔を持つモンスター”として知られるアンダーソン監督の撮影クルーは、ビスタビジョンのフォーマットの魅力を存分に発揮する、アンダーソン作品の中でも最もアクション色の強い作品を作り上げることができました。バウマンの他には、カメラオペレーターのコリン・アンダーソン、第1アシスタントカメラマンのセルギウス・ナファ、キーグリップのタナ・ドゥッベ、照明技師のジャスティン・ディクソンが参加しています。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』で“センセイ”ことセルジオを演じるベニチオ・デル・トロ Photo courtesy of Warner Bros.

レンズはフレアの質感が良く、肌のトーンも非常に魅力的に再現されます。例えば、役者をクローズアップで構図に収めると、背景は自然にぼけつつ、顔のより広い範囲にピントを合わせて保つことができます。

「そして、なかでも特に重要なのは、レンズのほとんどが強い暖色系だったことです」とバウマンは言います。「ポールはその特性に最も強く反応しました。クルーが色味のばらつきを整えて統一感を出そうとすることもありましたが、彼は“いや、乱れはそのままにしておこう”と言ったんです。どんな色のばらつきも、むしろ歓迎されていました」

撮影は主にカリフォルニア州北部と南部、そしてテキサス州エルパソで行われ、クルーは迅速に移動できるようになるべく身軽にして、光を探しながら撮影を進めました。室内では異なる色温度を意図的に混在させ、ネオンや蛍光灯も多用されました。

​物語は、300人の移民を解放するため移民税関捜査局(ICE)の収容施設に突入する場面から始まります。爆弾工作員のボブは革命組織フレンチ75に加わると、すぐにクールなパーフィディア(タヤナ・テイラー)に恋をします。彼らは銀行強盗のスリリングな犯罪生活を送るものの、娘ウィラの誕生とパーフィディアの逮捕によって、その暮らしは次第に複雑なものになっていきます。

オープニングシーンは、ティファナ近郊のサンディエゴ南部、国境の壁付近に設置された即席のセットで撮影されました。高速道路のアンダーパスからの眺めには、エキストラの役者たちに混じって、実際に国境を越える移民の姿さえも映り込んでいます。照明には、戦略的に配置したプラクティカル・ライトを使用しました。「建設現場で使われるWacker社のスタンド型照明を多数使用しましたが、これには光量を調節する機能がありません。最終的に様々な濃度のNDフィルターを組み合わせることで、少なくとも光の強さを調節できるようにしました」とバウマンは語ります。「工業的な醜さが醸し出すエネルギーと美学が実に興味深かったですね。地面に敷き詰められた銀色のシートに、LEDの冷たい光とナトリウムランプなどの異なる色温度の光が混ざり合い、さらに照明器具を追加することで独特な雰囲気を演出できました」

『ワン・バトル・アフター・アナザー』より、タヤナ・テイラー(左、パーフィディア役)とショーン・ペン(ロックジョー役) Photo courtesy of Warner Bros.

“ドッグパウンド”と呼ばれるエリアでは、兵士たちが檻の中を歩く印象的なシーンがあります。「檻の中の子供たちが長い列を作って歩いていくシーンで、私は一つのショットの中でT1.4から22まで絞らなければなりませんでした」と、バウマンは続けて語ります。「あんな操作は初めてでしたね。状況に応じて常に光量を調整する必要がありました。現場で起きていることに即興で合わせるしかなかったんです。そうやってショットを作り上げていったんです」

禅的な雰囲気を漂わせる“センセイ”ことセルジオを演じるベニチオ・デル・トロは、エルパソでの撮影中に途中から参加しました。ディカプリオとデル・トロの即興的な演技はすぐさま確立され、撮影チームも2人の自由奔放な演技に合わせて照明を調整することを学んでいったのです。「ポールはこのシーンの語り口を探っているところでした」とバウマンは付け加えます。「2人が即興で演技を始めると、ポールは“よし、そのままでいこう”という感じでした。そうした一種のゆるいスタイルに合わせて、照明を工夫しながら一瞬一瞬を逃さず捉えることができました」

例えば、セルジオのアパート(手つかずの二階を改造してスペースを大幅に広げた場所)のシーンを撮影していた時です。ボブが電話をかけている時にカーテンが偶然落ちて、下の通りが見下ろせる状態になりましたが、これは嬉しいハプニングでした。「その瞬間、“よし、これなら光がこっちから入ってくるな”とすぐ受け入れました」とバウマンは振り返ります。「照明技師のジャスティンが壁に光を投射した時も、作り込まれていない光を受け入れ、まばらな状態を活かそうとしました。そんな即興性を尊重するためにも、すぐに隠せる小さな光源をたくさん用意していました」

『ワン・バトル・アフター・アナザー』で、革命組織フレンチ75に加わる爆弾工作員ボブを演じるレオナルド・ディカプリオ Photo courtesy of Warner Bros.

ビスタビジョンによる見どころはカーチェイスシーンでした。特にサンディエゴのボレゴ・スプリングスにあるテキサス・ディップで撮影された、ウィラを中心とするシーンは迫力あるものになりました。ボレゴの起伏に富んだ丘陵地帯での、マジックアワーに何マイルにも及ぶ走行シーンを撮影するには、素早いフィルムの入れ替えやサポート班の戦略的な配置が不可欠でした。

また、起伏に富む丘陵地帯は広角撮影に理想的でしたが、ビスタビジョンカメラをカメラアームカーに取り付けた状態で使えるスタビライザーヘッドを見つけるのは至難の業でした。そこで、車両の後方に上下に動く昇降式のカメラリグも追加しました。こうした撮影はカメラの信頼性を大きく試すことになります。「カメラが揺さぶられると、時にはフィルムが詰まって撮り直すことになりました」とバウマンは言います。「とにかく躍動感を捉えることが大事でした。なのに現地では太陽が容赦なく照りつけていたんです」

結局のところ、過酷な条件の中で極限の状況を乗り越えながらビスタビジョンカメラの撮影に挑んだことは、バウマンと撮影クルーにとっては強い躍動感に満ちた、厳しくも楽しい経験となりました。そして、その映像が見せる迫力を最大限に伝えるため、『ワン・バトル・アフター・アナザー』は様々なフォーマットによる特別上映イベントとして公開されます。まず、1950年代以来初めてビスタビジョン(本来のアスペクト比1:1.50)による上映が行われます。これにはヴィンテージの横走りの映写機が使用されますが、ロサンゼルス(ビスタ・シアター)、ニューヨーク(リーガル・ユニオン・スクエア 17スクリーン)、ボストン(クーリッジ・コーナー・シアター)、ロンドン(オデオン・レスター・スクエア)での限定上映に備えて、映写機がアップグレードされています。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』は、アンダーソン監督にとって初となるIMAX 70mm上映作品でもあります(1:1.43のアスペクト比でも一部のIMAX劇場にて上映されます)。「私たちは文字通り最後の光が消える瞬間まで撮影を続けました。シルエットのようなものや些細なディテールでもいいから空に映るように、2絞り、2.5絞り増感してでも捉えようとしたんです」とバウマンは付け加えます。「この作品はビスタビジョン、IMAX 70mm、IMAX DCP、70mmなど、様々なフォーマットで上映される特別なイベント作品になると思います」

(2025年12月19日発信 Kodakウェブサイトより)

『ワン・バトル・アフター・アナザー』

 

 製作年: 2025年

 製作国: アメリカ

 原 題: One Battle After Another

 配 給: ワーナー・ブラザース映画

​ 公式サイト:  https://wwws.warnerbros.co.jp/onebattlemovie/

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