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2026年 3月 18日 VOL.257

第98回アカデミー賞 撮影賞含む4部門受賞!
『罪人たち』の“見えないVFX” ― 撮影監督オータム・デュラルド・アーカポーのラージフォーマット撮影を支えたビジュアルエフェクト

マイケル・B・ジョーダンが双子の兄弟スタックとスモークを演じる、ライアン・クーグラー監督作『罪人たち』 Photo courtesy of Warner Bros.

『罪人たち』は、ライアン・クーグラー監督によるブルースの響きをまとったヴァンパイア・スペクタクルであり、「IMAX撮影とVFXは相性が良くない」という従来の常識を覆す作品です。アカデミー賞®視覚効果賞にノミネートされた本作は、プロダクションVFXスーパーバイザーのマイケル・ララと、VFXプロデューサーのジェームズ・アレクサンダーをもフィルム派へと“改宗”させました。2人はいずれもマーベル作品で経験を積み、長年にわたりデジタルならではの磨き込まれた仕上がりと完璧さを支持してきたベテランです。ところが、撮影監督オータム・デュラルド・アーカポー(ASC)が、IMAXとウルトラ・パナビジョン70による65mm撮影という“桁外れのラージフォーマット”で本作を撮り上げたことで、彼らはすっかりフィルムの虜になってしまいました。

「この作品に入る当初、フィルム撮影という判断には正直なところ完全には納得していませんでした。純粋に技術的な観点で言えば、現代のデジタルセンサーは感度、ノイズ性能、ダイナミックレンジ、空間解像度のいずれにおいてもほぼ比類がありません。当時の私は、特にドイツ人エンジニアとしてのバックグラウンドもあり、そうした基準で撮影フォーマットを評価していたのです」とララは語ります。ララは以前、デュラルド・アーカポーと『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で仕事を共にしており、『罪人たち』におけるデュラルド・アーカポーのオーガニックで自然主義的な映像ビジョンを守るため、ライアン・クーグラー監督と同撮影監督から、チームに招かれました。

「フィルムは、スペック上の技術性能という点では、確かにやや不利に見えるかもしれません。取り扱いや実用性の面でも同じことが言えます。しかし調べていくうちに、この作品はそもそもスペックの問題ではないのだと気づきました。重要なのは、その物語を語るのにふさわしいメディアかどうかということです。そして(アナログの)フィルムは、それを100年以上にわたって見事に成し遂げてきました」とララは続けます。「『罪人たち』の制作を通して私たちが学んだのは、フィルムの美しさの多くは“完全ではないこと”に由来しているという点です。フィルムがこれほど魅力的で、しかも再現が難しい理由は、言い換えれば“うまくできないこと”の総体にあります。そこに人間らしさが宿るのです。私たちは不完全な存在であり、完璧ではないものに対して無意識のうちに異なる反応を示します。そして何より、フィルムは時代を超える存在です。フィルムそのものがすでに美しく、映画の体験そのものの在り方を根本から形づくってきたのです」

しかしララにとって何より印象的だったのは、クーグラー監督が『罪人たち』をフィルムで撮影することを絶対条件として譲らなかったことでした。監督の長編デビュー作『フルートベール駅で』以来、フィルム撮影を選択した作品でもあります。「彼は、フィルムで撮影されたものはよりリアルで、より本物らしく感じられると言っていました。そしてこの作品の制作を通じて私たちが学んだのは、フィルムには数値では測れない何かがあるということです。いま世の中は、デジタルカメラであれ生成AIモデルであれ、あらゆる分野で“完璧さ”を追求しています。ジェームズと私はVFXの仕事をしていますが、VFXは100%デジタルで、ある意味ではコンピューター的に完璧なものです。しかし、それは必ずしも人間的な質感とは言えないのです」

マイケル・B・ジョーダンが双子の兄弟スタックとスモークを演じる“ツイン(分割画面)”技術を用いた、ライアン・クーグラー監督作『罪人たち』 Photo courtesy of Warner Bros.

「『罪人たち』は“双子”という設定があるため、視覚効果なしで物語を成立させるのはほぼ不可能です」とララは続けます。「とはいえ、本作は従来の意味での“VFX主導の映画”ではありません。私たちの仕事はスペクタクルよりもむしろ繊細さに重点があり、撮影された映像と完全に溶け合う必要がありました。そのため私たちは、フィルムの特性やレンズの収差まで再現するシステムを開発しました。目指したのは、フィルムで撮影された映像と同じように時代を超える表現を生み出すことです。そして最終的には、その映像が再びフィルムにプリントされることも前提にしていました」

ララの誘いで本作に参加したアレクサンダー(『ワンダヴィジョン』『マーベルズ』)にとっても、『罪人たち』はラージフォーマットのフィルムが持つ力を改めて実感させる作品となりました。「映像のスケール ― そしてそこに現れる不規則性や粒子、フィルムの揺れ、レンズ収差、さまざまな画質上のクセは、VFXの観点から見ても非常に考慮すべき点です」と彼は語ります。「極めてクリーンなデジタルの素材を、フィルムの映像や最終的な上映プリントの中に違和感なく溶け込ませなければならない。そのプロセスはとても刺激的なものです。私にとってフィルムとは映画の視覚言語そのものであり、映画館で作品を体験するということの本質でもあるのです」

しかし『罪人たち』は、決してありふれた作品ではありません。クーグラー監督特有の感情豊かなストーリーテリングに、ブルース発祥の地であるミシシッピ・デルタに根付く濃密な超自然的伝承の要素を融合させた作品です。そのため本作では、伝統的な手法から最先端の技術までを組み合わせた複雑ながら補助的なVFXが必要となりました。さらに、撮影監督オータム・デュラルド・アーカポーの映像表現に合わせるための専用ワークフローも構築されています。VFXチームは、プロダクションデザイナーのハンナ・ビーチラーや衣装デザイナーのルース・E・カーターをはじめ、各部門の責任者と密接に連携しながら作業を進めました。実際、本作には1,000カット以上のVFXショットが含まれており、IMAX作品としては史上最多となります。しかもそれを、プリプロダクション開始から最終納品までわずか1年という期間で、限られた予算の中で実現しました。VFX制作には、ノルウェーのStorm Studios、アデレードのRising Sun Pictures、Industrial Light & Magic Vancouver、Base FX、Light VFX、Outpost VFX、TFX、そしてロサンゼルスのBaraboomなどが参加しています。

「フィルムやレンズが持つあらゆる特性に合わせるには、単に技術的に継ぎ目なく仕上げるだけでは不十分だということがわかりました」とララは説明します。「この点については、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の頃からオータムと非常に密接に取り組んできました。レンズが実際にどのような作用を生み出しているのか、それぞれの効果は何と呼ばれるのか。それを分解し、分析し、定量化するという、いわば科学実験のような取り組みを始めたのです。そして最終的には、それらすべてを再現できるツールキットを開発しました。デジタル素材に適用できるようにし、さらにチームのメンバーがそれをどう使うのか、そして何を見ているのかを理解できるようにすることも重要でした。実際、多くのコンポジターはこれまでキャリアの中でフィルムスキャン素材を扱った経験がなかったため、フィルムの映像にデジタル要素を自然に合成する方法を、私たちは一から教える必要があったのです」

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マイケル・B・ジョーダン演じるスタックとスモークのための2パスのTechnodolly(テクノドリー)分割画面技術。ライアン・クーグラー監督作『罪人たち』の撮影現場にて Photo courtesy of Warner Bros.

「『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のとき、オータムとレンズについて最初に話した際には、正直なところ自分が何を見ているのか理解できませんでした」とララは振り返ります。「彼女が好む特性や欠点、レンズ収差がどのようなものなのか、当時の私は理解していなかったのです。『罪人たち』ではさらに、IMAXのMSMカメラであれアナモフィックレンズを用いたウルトラ・パナビジョン70システムであれ、すべてのカメラに装填されていたコダック VISION3 500T 5219フィルムの特性も再現する必要がありました。しかし、ここでもまた、カメラの前では創造的な“シームレスさ”が求められ、私はこれを“クリエイティブ・インテント(創作意図)”の保持と呼んでいます。ライアンは共同作業者を非常に慎重に選び、全員に最高の仕事を求めます。現在ではポストプロダクションでかなりの部分を仕上げるショットもありますが、その場合、関わったクリエイターたちの本来の意図が失われてしまう危険があります。参考資料をいくら研究することはできますが、本作ではオータムとハンナをポストプロダクションにも積極的に参加させ、私たちを“デジタルの“大道具部門”のように使ってもらう形にしました。セットの拡張を行う際にも、実際のセットを設計したのと同じ発想と手によって進められるようにしたのです。その結果、技術的にもクリエイティブにもシームレスな映像が実現したのです」

見どころの一つが、マイケル・B・ジョーダンが演じる双子の兄弟スモークとスタックの“ツイン”表現です。これはHaloリグ(360度キャプチャ技術)とTechnodolly(テクノドリー)を用いたスプリットスクリーン技術によって実現されています。また、ジューク・ジョイントの店内にブルースの祖先と後継者たちが現れ、火の粉が空へと舞い上がる中で展開するシュールなミュージカル・モンタージュも印象的なシーンの一つです。さらに、アクション満載のクライマックスでは、夜明けとともに湖の中でヴァンパイアたちが焼け落ちていく場面が描かれます。これらも本作を象徴するVFXシーンとなっています。

「双子の表現は、VFXの観点から最初に取り組んだ大きな課題でした」とララは語ります。「スモークとスタックとしてマイケルを同じ画面の中に複数回登場させる必要があったため、『ソーシャル・ネットワーク』『罠にかかったパパとママ』『戦慄の絆』といった優れた前例を参考にしながら、利用可能なあらゆる手法を検討しました。双子を同じフレーム内に映すためにスプリットスクリーンが使える場合には、Technodollyを活用しました。これは非常に機動性が高く柔軟なシステムで、カメラの動きを正確に再現することができ、同じモーションで撮影したプレート同士をつなぎ合わせることが可能になります」

『罪人たち』の撮影現場にて、ライアン・クーグラー監督(左)と、“ツイン”表現のためのHaloリグを装着したマイケル・B・ジョーダン Photo courtesy of Warner Bros.

「最もうまくいったショットは双子の登場シーンです。車にもたれているスタックから始まり、カメラが回り込むと、その背後にスモークがいることが明らかになるショットです」とララは振り返ります。「非常に複雑なセッティングでした。当初はスタックがタバコを巻いてスモークに渡し、そのままシーンが進む想定でした。しかしライアンはその瞬間をすぐに終わらせたくなかったため、空間マーカーを使ってタバコを7回も行き来させることになりました」

一方で、振り付けられた双子同士の格闘シーンではHaloリグが使用されました。これはRising Sun Picturesの意見をもとに、Wild Rabbit Aerialが本作のために特別に開発したものです。VFXスタジオは、このリグのワークフローをIMAX品質の基準に合わせて強化しました。このリグは、複数のカメラを取り付けた円形の肩掛けハーネス型装置で、、ジョーダンは複雑な演技を撮影するためにリグを2回装着しました。

「私たちは彼らの仕様書をもとに、この作品の条件の中で実現可能な形に調整しました」とララは説明します。「つまり、撮影現場で適切な照明のもと、その瞬間に実行する必要があったということです。マイケルはスタックからスモークへと意識を切り替えるのに少し時間が必要で、その点は私たちも学んでいく必要がありました。しかし日を追うごとにメイクや衣装替えのスピードもどんどん速くなっていきました」

シュールなミュージカル・モンタージュのシーンは、IMAXで撮影された約3分半のワンテイクで構成されています。このシーンでは準備段階で多くの作業が行われました。撮影監督が設計したカメラの動線に加え、Baraboomによる詳細なプリビズ、そして入念なブロッキング・リハーサルが重ねられました。「非常にハードな作業でしたが、同時にとてもやりがいのあるコラボレーションでした」とアレクサンダーは語ります。「ただしフィルムマガジンには75秒分しか装填できず、それはIMAX MSMカメラをステディカムに載せていたため非常に重く、フィルムを半分に減らす必要があったのです。そのため途中にスティッチポイントを設け、複数のセグメントをつないでいくことで、連続した流れるような“ワンカット”を実現しました」

ライアン・クーグラー監督作『罪人たち』より、シュールなモンタージュ・シーケンスにおける炎のエフェクト  Photo courtesy of Warner Bros.

「そして屋根へとチルトアップする場面になります」とアレクサンダーは続けます。「それは本編撮影の最終日でした。ルイジアナの実際のロケーションで、本物の屋根を燃やす演出を行い、セット全体を煙で満たしたのです。まるで現実離れした光景でした。オータムは、数百万ドルもするカメラをその下に置くなんて正気ではないと思っていたようですが、結果的にはすべてが見事にうまくいき、撮影を締めくくる壮大なフィナーレになりました」

「ポストプロダクションのある時、ライアンが私たちのオフィスに来て“燃えている屋根を突き抜けることはできるか?”と尋ねたのです」とアレクサンダーは続けます。「そこで、そのIMAXで撮影した屋根の炎の素材が、完全なデジタル再現を行うための高品質なリファレンスとして使われることになりました」

しかし、バイユー(ルイジアナの湿地帯)でヴァンパイアたちと対峙するクライマックスの戦いでは、本作の中でも最も目立つ形で補助的なVFXが用いられています。これは、クーグラー監督の演出とデュラルド・アーカポーの撮影のもと、SFXメイクやスタント部門と密接に連携して実現されました。「そのシーンのためにガントチャート(工程管理表)を作成しました」とララは振り返ります。「そしてSFXメイクのスーパーバイザー、マイク・フォンテインが、ヴァンパイアの首領レミック役のジャック・オコンネルに施す“死から燃焼まで”の5段階のメイクをデザインしました」

しかし、この重要な場面で地平線の向こうから太陽が顔を出す瞬間も、同じくらいに重要でした。このショットは4つのCGカットによって作られています。「物語全体は24時間の出来事として進んでいき、時を刻む時計のように太陽が動いていくことがストーリーの大きな要素になっています」とアレクサンダーは説明します。「私たちはバイユーで早朝の時間帯に撮影しており、かなり疲れていました。太陽が昇る瞬間は本当にわずかな時間しかありません。素晴らしいショットはいくつか撮れましたが、実際の“日の出そのもの”は捉えられなかったのです」

ライアン・クーグラー監督作『罪人たち』より、ヴァンパイアのレミック(ジャック・オコンネル)が焼けていく様子を表現したSFXメイクをVFXで補完したシーン Photo courtesy of Warner Bros.

その瞬間は最終的に、VFX用のリファレンスとして事前に撮影されていた周囲一帯のパノラマ素材を使って作り上げられました。「つまり、実際の環境から得た情報をもとに、その瞬間を再現することができたというわけです」とアレクサンダーは続けます。「オスロのStorm VFXのチームが非常に高度な水のシミュレーションプログラムを構築し、バイユーの水面をリアルに再現するとともに、太陽の位置も正確に配置することで、これらのショットを完全に作り上げました」

しかし、他のすべての作業と同様に、最終的な目的は“クリエイティブ・インテント(創作意図)”を守ることでした。「私たちの役割は、撮影現場にいたクリエイターたちの創作意図をすべて受け取り、それがポストプロダクションでもきちんと守られ、反映されるようにすることです」とララは強調します。

(2026年2月12日発信 Kodakウェブサイトより)

『罪人たち』

 

 製作年: 2025年

 製作国: アメリカ

 原 題: Sinners

 配 給: ワーナー・ブラザース映画

​ 公式サイト:  https://www.warnerbros.co.jp/home_entertainment/sxoeo-_h40li/

予告篇

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