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2026年 3月 24日 VOL.258

撮影監督ダリウス・コンジ、コダックの35mmフィルムで「表情を捉える喜び」を再発見 ─ ジョシュ・サフディ監督作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より、ロンドンでの卓球の試合で、主人公マーティを演じるティモシー・シャラメ Photo courtesy of A24.

撮影監督ダリウス・コンジ(ASC, AFC)にとって、ジョシュ・サフディ監督の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の撮影は、35mmフィルムへの情熱を再び呼び覚ます経験となりました。本作は1952年のスポーツドラマを思わせる作風で、多彩で魅力的な表情の数々にじっくりと向き合うことができます。特に主人公マーティを演じるティモシー・シャラメの表情は印象的で、口数の多い卓球に取り憑かれたハスラーとしてのキャラクターが生き生きと映し出されています。

「『マーティ』は、これまでのどの作品よりもフィルム撮影の喜びを思い出させてくれました」とコンジは語ります。「フィルムと360mmレンズで撮影することで、自分が本当にやりたいことに近づいていると初めて実感できたのです」。本作で使用されたフィルムはコダック VISION3 500T カラーネガフィルム 5219、カメラはアリカムLT、レンズは主にパナビジョンCシリーズです。

「それは自分にとって、より大きな喜びを与えてくれるものです」とコンジは続けます。「時代ものだからか、それとも常に俳優の顔に非常に近い距離で撮影しているからかは分かりませんが、フィルムストックはキャンバスを与えてくれます。それはまるで絵画のようで、絵画の表面、絵の“皮膚”のようなものです。デジタルではそういう質感は得られません。ランダムなピクセルを再現するだけになってしまいます」

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より、卓球の勝負で対峙するウォーリー役のタイラー・オコンマ(左)と主人公マーティ役のティモシー・シャラメ Photo courtesy of A24.

そして、この物語でジョシュ・サフディは、1950年代のニューヨークで卓球に夢中になるはみ出し者や変わり者、ハスラーたちを描き、まさに格好のキャンバスを提供しています。卓球はサフディの家族に代々受け継がれてきたものでしたが、彼が派手な卓球ハスラー、マーティ・ライスマンの自伝『The Money Player: The Confessions of America's Greatest Table Tennis Champion and Hustler』を読んだとき、ティモシー・シャラメが演じる主人公にぴったりの題材だと確信しました。シャラメはライスマンにも似ています。『アンカット・ジェムズ』(コンジが撮影)と同様に、サフディは再びアメリカンドリームにまつわる暗くねじれたメタファーに惹かれました。主人公にとって、この旅はまるで地獄を行き来するかのようなものです。

実際、サフディはコンジに対し、『アンカット・ジェムズ』の“大胆で美しい”映像美を1952年の世界観に置き換えたイメージを伝えたといいます。コンジはこう述べています。「普段から顔の表情を撮影していますが、この作品でフィルムとデジタルに対する考え方が変わりました。今では違いがはっきり分かります。ネガを少し増感すると、デジタルでは得られない特別な質感が映像に生まれるのです」。撮影にはカメラオペレーターのコリン・アンダーソンとブライアン・オズモンド、ガファーのイアン・キンケイド、カラーリストのイヴァン・ルカスが携わっています。

コンジは、キャスティング・ディレクターのジェニファー・ヴェンディッティの手腕を高く評価しています。彼女は、時代を超えて魅力的に見える俳優たちを見事に揃えました。キャストにはグウィネス・パルトロウ、オデッサ・エイジオン、フラン・ドレッシャー、ケビン・オリアリー、タイラー・オコンマ、サンドラ・バーンハード、アベル・フェラーラ、そしてライバル役の遠藤コトを演じる卓球スターの川口コトが含まれています。

「これはストリートキャスティングや、ジョシュとジェニファーによるキャスティングと大いに関係しています」とコンジは語ります。「『アンカット・ジェムズ』でも同じ手法でしたが、『マーティ』ではさらに強い効果を発揮しました。140人から150人もの、ほとんど知らない人たちとこうした形で仕事をするのです」

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より、ニューヨークの靴店セットでの撮影監督ダリウス・コンジ(左)とジョシュ・サフディ監督 Photo courtesy of A24.

参考までに、コンジは1950年代の写真家アーンスト・ハースやヘレン・レヴィット、さらにアメリカの実験映画作家ケン・ジェイコブスの作品も改めて振り返りました。しかし、卓球シーンに最も大きな影響を与えたのは、フランスの画家オノレ・ドーミエとジョルジュ・ベローズでした。象徴的な顔立ちだけでなく、下から温かく照らす光の使い方も特徴で、これを本作の中で時折応用しています。「もちろん、まずはマーティからです」とコンジは強調します。「彼の演技や表情、その『大胆で美しい』魅力。私はこの表現が大好きです」

さらに、コンジは伝説的なプロダクションデザイナー、ジャック・フィスク(『ツリー・オブ・ライフ』)による時代感あふれる世界観の構築も高く評価しています。「質感や層、フィルムに盛り込んだものによって、彼は当時のリアルな感じをたくさん与えてくれました」と振り返ります。代表例としては靴屋でのオープニングシーンがあり、そこで観客はマーティの卓越した営業スキルに初めて触れることになります。

コンジはこう続けます。「ここには非常に絵画的な表現があります。肌のトーンや廊下に置かれた小物や箱の配置、光の捉え方などです。増感現像によってフィルムの描写が見事に際立ちました。このシーンは本作の冒頭部分で、ロウアー・イースト・サイド近くのロケ地で撮影をし始めた時のものでした。ジャックは靴屋を正確に再現してくれました。場所はとても狭く、2台のカメラで異なる角度から撮影し、外は青く見えました。靴屋の中から外を見たとき、フィルムならではの色の分離に非常に感動しました」

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より、ニューヨークのロウアー・イーストサイドを駆け抜ける主人公マーティ役のティモシー・シャラメ Photo courtesy of A24.

撮影が最も難しかったシークエンスのひとつが、ロウアー・イースト・サイドのオーチャード・ストリートをマーティが警察から逃げる狂気のダッシュシーンでした。コンジはこう振り返ります。「1950年代らしいアングルを見つけるのは非常に大変でした。ジャックにとっても大きな挑戦でしたが、その重圧を私たちに感じさせることはありませんでした。うまく機能する機材をいくつか見つけることができました。非常に複雑なカメラセットアップでした。カメラトラックや小型クレーン付きカメラカーを、素晴らしいグリップのジョー・ベルシュナーとリッチー・ギネス・ジュニアが手動で操作し、その後カメラオペレーターのコリン・アンダーソンが操作しました。でも、通りの角度を考えると、これが最適な方法でした」

『フレンチ・コネクション』は、私たちにとって守護天使のような存在でした。コンジは、ほかのカメラオペレーターであるブライアン・オズモンド、ガファーのイアン・キンケイド、カラーリストのイヴァン・ルカスにも感謝の意を示しています。「ジョシュと仕事をするときは、いつも非常にタイトな画角でした。しかし今回は、35mmや50mm、40mmのアナモフィックレンズで少し広めに撮影できた上に、長焦点レンズでもテイクを重ねることができました。さらに、博物館にあったシネマスコープ用のフィルムカメラも使用しました。信じられないほど素晴らしい体験でしたが、扱うのは非常に難しかったです」

ロンドンを舞台とした白熱の卓球シーン(ニューヨークのロウアー・イースト・サイドで撮影)では、コンジは3台のカメラを使用し、超望遠レンズを主体に時折広角レンズを組み合わせて、目まぐるしいラリーの動きを精密に追いました。ドキュメンタリー的手法も取り入れ、カメラ同士が互いを捉える構図や、俳優2人の間にカメラを巧みに隠すアングルも採用しています。コンジは「ジョシュと私は、卓球を古典的な撮影手法で捉えたかった」と語り、こう振り返ります。「商業映像のように派手で動的にするのではなく、主人公の存在感や位置関係を物語ることを重視しました。そのうえで、試合そのものの迫力や緊張感を自然に観客に伝えることができたのです」

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』より、ロンドンでの卓球の試合でポイントを決める主人公マーティ役のティモシー・シャラメ Photo courtesy of A24.

「私たちは、まるで誰かの幻影をそのまま映すかのように撮りたかったのです」とコンジは続けます。「パナビジョンの最長ズームを使って、はるか遠くから撮っていることは誰も気づかないでしょう。時にはレンズの前にテレコンバーターを装着してさらに焦点距離を伸ばすこともありました。そして時にはその長いレンズとともにカメラを動かしながら撮影します。長いレンズの取り回しは時に不自然で、まるで40年代や50年代の撮影のようですが、とても興味深いプロセスでした」

それに対して、タイムズスクエアの象徴的な卓球場を含む、煙が立ち込める卓球場での試合はまったく異なる雰囲気でした。フィスクは窓を閉めて暗さを演出し、控えめな照明で空間の奥行きや煙の質感を際立たせています。「私たちは、それぞれの卓球場に独自のキャラクターを与えたかったのです。そして、カメラはそこにいるさまざまな表情を捉えます」とコンジは語ります。

一方、クライマックスとなるマーティと遠藤コトの卓球エキシビションは、東京の屋外で日中に撮影されたことで大きな効果をもたらしました。「ニューヨーク近郊のさまざまな候補地を検討しましたが、求めていた場所は見つかりませんでした」とコンジは説明しています。「大量のエキストラが必要でしたが、東京で数日間の撮影が可能だと分かったので、最小限のスタッフと俳優を連れて行き、日本人クルーで撮影することにしました」

「これはとても良いアイデアでした」とコンジは続けます。「まったく異なる環境を作り出すことができました。デーライトに補助光を組み合わせて撮影したかったのですが、ほとんど自然光で撮影しました。3台のカメラで撮影し、使用したレンズのおかげで映像により親密な印象が生まれています。ニューヨークで撮影しても同じ感覚にはならなかったと思います。現地に行ったときに全く違う感覚でした。作品を見れば、その違いは分かると思います」

結局、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』はコンジにとって期待に応えてくれる作品となりました。予想外の発見に満ち、人生についての鮮烈なメタファーを内包しています。「マーティは理想のために、すべてに対して完全に執着し容赦がありません」とコンジは語ります。「ある意味、この男は自分自身を探していて、人生の本質をほとんど否定しているのです。そして突然、自分が誰であるかを発見し、再び地に足をつける。それこそが人生だと思います」

(2025年12月24日発信 Kodakウェブサイトより)

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

 

 製作年: 2025年

 製作国: アメリカ

 原 題: Marty Supreme

 配 給: ハピネットファントム・スタジオ

​ 公式サイト:  https://happinet-phantom.com/martysupreme/

予告篇

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