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2026年 5月 22日 VOL.263

総合格闘技を題材にしたベニー・サフディ監督の伝記映画『スマッシング・マシーン』― 撮影監督マセオ・ビショップが採用した独自の16mmスタイル

ベニー・サフディ監督『スマッシング・マシーン』より、総合格闘家でUFCファイターのマーク・ケアー役を演じるドウェイン・ジョンソン Photo courtesy of Eric Zachanowich and A24.

伝説的な総合格闘家でありUFCファイターでもあるマーク・ケアー(ドウェイン・ジョンソン)を描いたスポーツ伝記映画『スマッシング・マシーン』。監督のベニー・サフディ(『アンカット・ダイヤモンド』)と撮影監督のマセオ・ビショップ(『THE CURSE/ザ・カース』)はこの作品で、ドキュメンタリーのスタイルに基づき、格闘シーンの見せ方に独自の映像ルールを設けました。

本作は、HBOのドキュメンタリー『The Smashing Machine: The Life and Times of Extreme Fighter Mark Kerr』(2002年)を原作としています。この作品はサフディを魅了しました。「あのドキュメンタリーを観ましたが、マークにはとても興味深く、唯一無二で特別だと感じさせる何かがあったんです」と監督は語ります。「リングではあれほど巨大で獰猛だった男が、自分の感情や自分が抱えていたものについて、とても穏やかに、そして理知的に語ることができるんですから」

その上、ケアーは依存症や、パートナーのドーン・ステイプルズ(エミリー・ブラント)との不安定な関係にも苦しんでいました。「彼には共依存的で非常に破滅的な面があり、誰にとっても心を動かされる普遍的な人間像として取り上げるのに打ってつけの人物でした。観客は、人々がどんな問題を抱えていて、それにどう共感できるのかを想像せずにはいられないからです」とサフディは付け加えます。

1997年から2000年という時代の激しさとドキュメンタリーのような質感を捉えるため、手持ち撮影ならではの動きを多用しつつコダックの16mmフィルムで撮影することに、一切の迷いはありませんでした(冒頭部分は2000年当時のヴィンテージの放送用カメラで撮影され、ケアー本人が登場するエピローグはIMAXで撮影されました)。ビショップはARRI 416カメラを使い、手持ち撮影でもスタジオモードでも、主にズームレンズを採用しました。スーパー16用レンズには、ツァイス 11-110mm、アンジェニュー HR 7-81mm、クック 10-30mm、キヤノン8-64mmなどが含まれていました。

ベニー・サフディ監督『スマッシング・マシーン』より、総合格闘家でUFCファイターのマーク・ケアー役を演じるドウェイン・ジョンソン Photo courtesy of Eric Zachanowich and A24.

一方フィルムストックは、コダックVISION3 500T 7219、250D 7207、そして50D 7203でした。

「16mmには、ある種のリアリズムの感覚を呼び起こす何かがあるんです」とサフディは続けます。「おそらく、人々が40年間にわたって16mmでドキュメンタリーを撮ってきていて、それが人々の頭の中に刷り込まれているからでしょう。16mmは非常に扱いが難しい媒体で、露出アンダーにも露出オーバーにもできません。ネガにとって完璧な露光量になるよう、露出を合わせなければならないのです」

「フィルム、とりわけ16mmフィルムがもたらしてくれるものは、独特の階調であり、アナログならではの温かみと深い味わいだと私は思います。そしてそれは、化学的なプロセスによってのみ得られるものなんです。そこには心や魂が宿ります」と、『アンカット・ダイヤモンド』では師である撮影監督ダリウス・コンジと共にカメラオペレーター兼撮影助監督を務めたビショップは付け加えます。「さらに、16mmというサイズのおかげで、より大型のカメラではできないような動かし方でカメラを動かすことができ、より長いテイクも撮影できます。そして、この2つを組み合わせた時に、ある種の魔法のようなものにたどり着けるんだと思います」

サフディにとって重要だったのは、過去へとさかのぼり、ケアーの試合を16mmカメラで再現することでした。「照明次第でもっと壮大な見せ方ができると思ったんです」と彼は付け加えます。「より大きな空間で撮影し、広がりを出すことも可能です。(ナラ・シネフロの実験的な)楽曲を取り入れることもできます。ただ、観客がこうした領域にたどり着くには、映画を観る上で必要な視点があるんです。観客をケアーの頭の中に入り込ませたいなら、自分が本当にその場にいるかのように感じてもらう必要があります。だからこそ、カメラ配置はリアリティにしっかりと根差したものでなければなりませんでした」

ただ、サフディとビショップは、試合を描く上で最もリアルな視点は、リングの外からのものだと判断しました。「バスケットボール映画を観ていると、カメラが突然コートに入り、選手たちと一緒に動き回ることがありますよね」とビショップは語ります。「そうすると、観客の視点がとても不自然な位置に置かれてしまうんです。だから私たちは、自分たちのことを、 “現実”世界で選手に密着できるものの、プロとしての試合中には限られた範囲でしか追えないドキュメンタリー撮影班だと想定しました。撮影班には、どうしても許可されず立ち入れない場所がありますからね。そうすることで、より本物だと思えるリアリティに根差すことができたんです」

『スマッシング・マシーン』より、(左から)ベニー・サフディ監督、ドーン役のエミリー・ブラント、総合格闘家でUFCファイターのマーク・ケアー役のドウェイン・ジョンソン Photo courtesy of Eric Zachanowich and A24.

「あるシーンで複数のアングルを組んでいて、“よし、このショットが撮れるぞ”と思ったことがありました」とサフディは付け加えます。「でも横を見ると、“待てよ、カメラの位置的に自分が映ってしまうな”となるんです。だからここにはカメラを置けず、もう一方のカメラのフレームからギリギリ外れるここに置けばいい、と。なので、カメラがどこにあるのかは常に意識していました」

ビショップとサフディは、スタントコーディネーターのグレッグ・レメンターと緊密に連携しながら、各試合をセクションごとに細かく割り(最も大規模だったのは、日本で行われたPRIDEでした)、リングの周りでポジションやアングルを変えていきました。この2カメラ撮影では、リングの異なるサイドにカメラを配置し、サフディがそのどちらかを選びました。ただし、リングサイド席から見ているように、カメラを置くのはリングの2つのサイドだけに制限していました。もっとも、ドラマチックなPOV(視点)を強調するため、時には3台目のカメラを使って非常に高い位置からのショットを撮ることもありました。

ビショップは、プロダクションデザイナーのジェームズ・チンランドとも緊密に協力しました。当初の計画では、LEDボリュームステージで撮影し、CG背景に置き換える予定でした。アリーナを6万人の観客で埋めることはできないと分かっていたからです。しかし、チンランドが使用できるアリーナを見つけたことで、バンクーバーでのロケは思いがけず理想的なものとなりました。元々の会場ほど大規模なアリーナではありませんでしたが、よりリアルでした。「空間の奥行きを強く感じることができて、素晴らしかったです」とビショップは語ります。

一方、ニューヨークとニュージャージーで行われたテスト撮影期間は有意義なものでした。自然光の豊富な屋外ロケ地と、人物の動きを確認できるボクシングジムが確保され、ケアーの象徴的な「グラウンド&パウンド」スタイルに近いファイトムーブも実演されました。

ベニー・サフディ監督『スマッシング・マシーン』より、総合格闘家でUFCファイターのマーク・ケアー役を演じるドウェイン・ジョンソン Photo courtesy of Cheryl Dunn and A24.

「16mmフィルムでどこまでやれるのかを確かめるため、かなり攻めた使い方をしました」とビショップは語ります。「それまで16mmをそれほど多く撮ってこなかったので、いろいろ試しました。2絞り増感したり、2絞り減感したりして、実際にどこで破綻するのか、どこまで攻められるのかを見極めたんです。結局、増感はほとんどしませんでした。適正露出で撮った画が、今回の目的には最適に思えたからです。美しい仕上がりをもたらしてくれました」

監督と撮影監督は、自分たちの映像戦略について、一歩引いた視点から試合を捉えるようなものだったと説明しています。アクションを見られるポジションを確保するために、少し苦労しなければならなかったのです。ここでドキュメンタリー作品が参考になりました。HBOの『The Smashing Machine』だけではなく、南北戦争中にウィリアム・T・シャーマン将軍が南軍地域で行った焦土作戦の行軍ルートをたどってアメリカ南部を巡る、自己探求を交えた感傷的な旅を収めたロス・マケルウィーの『シャーマンズ・マーチ』(1986)や、ビル・クリントンの1992年の大統領選挙キャンペーンに密着したD・A・ペネベイカーとクリス・ヘゲダスによる『クリントンを大統領にした男』(1993)も助けになりました。

「『シャーマンズ・マーチ』や『クリントンを大統領にした男』はとても参考になりました。(『The Smashing Machine』の)ジョン・ハイアムズとは異なるスタイルでしたから」とサフディは説明します。「16mmならではのとても美しい撮影手法でした。16mmカメラによって、さまざまな場所へ入り込むことができていたんです。そして、観客が見下ろすような視点が生まれ、カメラがどこにあるのかも実感できるんです。ただ一方で、私たちはロングレンズも多用しました。1200ミリのレンズを使ったこともあったと思います。ロングレンズ・ワイドショットと呼んでいました。反対側から撮っても、全身を収めたショットになるからです」

「リングの外側にいることは、とても自由だと感じました。リングの中にいるよりも、リアルに見える画が撮れたからです」とサフディは続けます。「各々の顔面にパンチが入る様子を見るのも同様です。特定の視点に根差すことで、すべてのパンチが見えるわけではなくなり、1発か2発しか見えなくなるからです。そして、残りは音で聞くことになります。また、音を消して試合の映像を観ていた時、カメラの動きが確かに何かを生んでいることに気づいたのを覚えています。すべてを初めて目にしている感覚です。私が目指したのは、本当に一度きりのものとして試合を観ている感覚だったんです」

ベニー・サフディ監督『スマッシング・マシーン』より、総合格闘家でUFCファイターのマーク・ケアー役を演じるドウェイン・ジョンソン Photo courtesy of Eric Zachanowich and A24.

「撮影には、保つべき流動性があったと思います」とビショップは付け加えます。「生き生きとした感覚を出すための、ある種の開放性です。簡単に撮れすぎるものや、都合が良すぎるものを警戒する必要がありました。世界には暴力があふれていて、そこに身を置く人々にとって完全に当たり前のものになっています。だからそこに起きた勝敗も、リングの中や家庭で起きる争いも、同じように部外者として撮影しました」

しかし最大の対立は終盤、マークとドーンの間で起こり、フェニックスの自宅は比喩的なリングとなります(バックではブルース・スプリングスティーンの「Jungleland」が流れています)。格闘技の試合と同様に5つのセクションに割って撮影され、それぞれがジョンソンとブラントにとって、無理せずこなせる程度の身体的負荷になるようになっていました。

「感情的なケンカも、試合と同じ手法で撮影したら面白いんじゃないかと思ったんです」とサフディは語ります。「それに、この種の口論はどこへ転がっていくのか分からないものなので、理にかなってもいます。なので、瞬間ごとに区切っていくのは面白いやり方だと思いました。ケンカの最後に至る頃には感情が変化しているので、何が発端だったのかさえ分からなくなるんです」

ベニー・サフディ監督『スマッシング・マシーン』より、総合格闘家でUFCファイターのマーク・ケアー役を演じるドウェイン・ジョンソン Photo courtesy of Eric Zachanowich and A24.

「私はずっと、2人の関係こそが真の闘いだと考えていました。他の闘いは競技ですから」とビショップは付け加えます。「そして、登場人物がすべきことをするために、俳優たちに現場で自由に動いてもらうことは、私たち全員にとって不可欠でした」

本作では、ダイナミックな360度のアクションを可能にするため、カメラや照明を隠せるような家を特別に建てました。「2カメラ体制でも、DJ(ドウェイン・ジョンソン)の顔とエミリーの顔を両方捉えられるだけの距離を確保できました。でも、2人からは私たちが見えないんです」とサフディは続けます。「2人がちゃんとコミュニケーションをとれるのは、ケンカをしている時だけです。それは歪んだ関係性ですよね」

サフディは当初、寝室での争いのシーンの最終パートを翌日に撮影する予定でしたが、熱量を保つために一度にすべてを撮影することにしました。「そして、最後の場面は一発撮りでした」とサフディは付け加えます。「2人はやり遂げ、それで完成していました。だから私は“もう一度やる必要はない”と言ったんです。そして残りの時間、1時間半ほど、私たちはその場に座って話したり泣いたりしながら過ごしました。強烈な体験でした」

(2025年10月24日発信 Kodakウェブサイトより)

『スマッシング・マシーン』

 

 製作年: 2025年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: The Smashing Machine

 配 給: ハピネットファントム・スタジオ

​ 公式サイト:  https://a24jp.com/films/smashingmachine/

予告篇

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