
2026年 5月 27日 VOL.264
撮影監督マルツェル・レーブがコダックの革新的フィルム「VERITA 200D」へと発展する豊かな質感を備えた65mmと35mmの“パイロットストック”で挑んだ『ユーフォリア/EUPHORIA』シーズン3

Photograph by Patrick Wymore/HBO.
HBOの『ユーフォリア/EUPHORIA』シーズン2で、現実離れした世界観を表現するために35mmのコダック エクタクロームを復活させたクリエイター/監督のサム・レヴィンソンと撮影監督のマルツェル・レーブ(HCA, ASC)。彼らはその後、シーズン3で全く異なるルック(映像の見た目)とともに戻ってきました。高校卒業から5年後へと時間が飛躍する物語に合わせて、古典的なハリウッド映画の伝統を受け継いだ、より明るく鮮やかな映像表現を求めていたからです。
これを受けて、レヴィンソンとレーブは、現代のプロダクション・ワークフローにおける実用性を損なうことなく、シーズン3で目指すルックを実現するため、コダックのフィルム設計チームと緊密に連携し、「パイロットストック」と呼ばれる新しいカラーネガフィルムの開発に取り組みました。その成果として誕生したのが、コダックが先日発表したVERITA 200D 5206/7206です。現在は65mm、35mm、16mmフォーマットで展開されています。
この新しいフィルムストックは、細部まで描写されたハイライト、高い彩度、深みのある黒、自然で温かみのあるスキントーン、そして非常に豊かなダイナミックレンジを備えています。制作チームが求めていた、『捜索者』や『ウエスタン』といった古典的な西部劇に着想を得た、雄大な風景描写に最適なものでした。

Photograph by Eddy Chen/HBO.
シーズン3は全面的にコダックのフィルムで撮影され、レヴィンソンとレーブは35mmおよび65mmフォーマットで100万フィート(約30万5千メートル)を超えるVERITA 200Dを使用しました。さらに、本作は65mmラージフォーマットフィルムを大規模に使用して撮影された初のテレビシリーズとなります。
「これまでも、CMやミュージックビデオのような比較的小規模な作品ではVERITAを使ってきましたが、長編作品で使うのは今回が初めてです」とレーブは言います。「この新しいフィルムストックは、VISION3の映画用フィルムよりも濃密なトーンカーブを備えていて、感度もやや低めです。とはいえ、現代のネガフィルムが持つ利点はすべて兼ね備えています。質感も、古き良き黄金時代のプリントフィルムに近い感じなんです」
『ユーフォリア/EUPHORIA』のこれまでのシーズンでは、登場人物たちが激動の高校時代を駆け抜ける姿を、高度に様式化されたミニ映画のように深く掘り下げて描いていました。シーズン3では一歩引き、20代前半となった彼らが自らのアイデンティティを模索する姿を、より広く俯瞰的な視点から捉えています。
その結果、監督と撮影監督は、65mmのVERITA 200Dを1:2.20のアスペクト比で使用し、できる限り自然光を活かしながら、鮮烈な黄色や青、赤によって人物の顔や物体、空間を際立たせました。「現在流通しているVISION3は、どれも性能面では素晴らしいと思います。でも、スキャンすることと、できるだけ多くの情報を捉えることを前提に設計されています」とレーブは付け加えます。「私たちは、むしろ少し逆の方向を目指していました。多少扱いが難しくても、より味わい深い映像を生み出してくれるものを求めていたんです」

Photograph by Eddy Chen/HBO.
日中の屋外・屋内シーンはVERITAで撮影された一方、夜間の屋内シーンと大部分の夜間の屋外シーンは、コダック VISION3 500T カラーネガティブフィルム 5219で撮影されました。「その理由は500Tの方が高感度で、タングステン光にバランスされているからです。なので、よりタングステン光寄りの環境では、毎回500Tで撮影していました。一方、VERITAはデーライトにバランスされたストックで、そこが本当に力を発揮する領域なんです」
カメラについて、レーブは5パーフォレーションの65mmをARRI 765で、35mmのVISION3 500TはARRI LTで撮影しました。65mm用レンズには、ARRIのプロトタイプの65mmレンズと、ARRI/Zeissのプライム765のセットを使用。35mm用には、パナビジョン Eシリーズ アナモフィック、パナビジョン Cシリーズ アナモフィック、パナビジョン マクロ アナモフィック Panatar、そしてパナビジョン プリモ アナモフィック ズーム SLZ11 24-275mm T2.8が用いられました。
しかし、このISO 200のパイロットストックを使いこなすための照明設計は容易ではありませんでした。VISION3ほどアンダー露出への許容度が高くないからです。「ハイライトには本当に寛容なんですが、シャドウにはそこまで寛容ではないんです」とレーブは強調します。「そのため、他のストックを使うときよりも、かなり多めにフィルライトを入れています。同じようなコントラストを得るために、より均一な照明での画作りを意識しているんです。照明としてはより古典的なアプローチで、本当に楽しい経験でした。感度の低いストックに合わせて照明を組まざるを得ない状況は好きなんです。その方が、より大胆な選択につながりますからね」

Photograph by Patrick Wymore/HBO.
シーズン3は、新たな65mm VERITAによる印象的な映像とともに幕を開けます。ルー(ゼンデイヤ)がメキシコでのドラッグ運搬の後、テキサス州アグア・ダルシーへ車を走らせる場面です。しかし、彼女のジープが国境フェンスに引っかかって動けなくなり、慎重にフェンスを降りていくことになります。
「あの国境の壁のシーンは、本当に気に入っているんです」とレーブは語ります。「3日かけて撮影しました。本当に大掛かりで難しいシーンでした。言うまでもなく、高さ15フィート(約4.6メートル)の場所にいる俳優を撮るのは、決して簡単なスタートではありません。私たちはランカスターに国境の壁を建てました。毎日同じ時間帯の光に合わせて撮影していたので、時間帯によって撮れるアングルも限られていました。実際に高さ15フィートの壁を建てて、そこでワイドショットやアクションシーンの大半を撮影しました。一方で、高さ5フィート(約1.5メートル)の壁も用意して、車のクローズアップや地平線が映らないショットを撮りました」
「さらに撮影監督テヒラ・デ・カストロが率いる別ユニットもあり、車の細部、傾斜台を上る車輪、壁にぶつかる傾斜台、ペダルを踏みこむルーの足などを撮影していました。アプローチとしては、基本的に『ジュラシック・パーク』におけるこの種のジープを使ったシーンの手法で、できるだけ楽しめるものにしたかったんです。ルーが人生の中で置かれている状況や、この国の現状を象徴する的確な比喩表現でした」

Photograph by Eddy Chen/HBO.
引き続きVERITAで撮影されたのは、ルーがアグア・ドゥルセの田舎に暮らすクリスチャン一家の納屋で眠るシーンです。その後、一家と囲む食卓の時間が、彼女の中に幸福や安らぎへの憧れを呼び起こしていきます。「あのシーンは撮影スケジュールのかなり早い段階で撮りました」とレーブは振り返ります。「そして、このストックがラージフォーマットでどれほどの表現力を発揮できるのかを目の当たりにして、サムも私も、これこそがシーズン全体のルックだと確信したんです」
農場でのシーンは、精緻に撮影された別れの場面で締めくくられます。戸口で切り取られた室内から屋外へとカメラが引いていく構図は、『捜索者』を彷彿とさせるものです。「正直に言うと、あの似たような構図は意図的に選択したものではありません。でも、広い空や西部劇風のルックは、私たちが目指していたものをうまく表現していたと思います」とレーブは付け加えます。

Photograph by Patrick Wymore/HBO.
同様に、キャシー(シドニー・スウィーニー)とネイト(ジェイコブ・エローディ)の盛大な屋外結婚式の場面は、豪華なロケーションとポートレート的な構図の両面において、コダックの新しいストックの魅力を存分に示す場面となりました。「花々の色彩や、青い空と海、背景の建物のピンクまで、あらゆる色を豊かに表現できるんです」とレーブは言います。
対して披露宴のシーンは、スタジオセットでVISION3を使用して撮影されました。多数のライトボックスや事前に仕込まれた照明に加え、多くの照明キューが用いられています。「照明を組み直したり、大きな調整を加えたりすることなく、カメラを素早く動かしたり、長い距離を移動させたりできるような照明プランを目指しました」と彼は続けます。
今シーズン最大のセットとして建設されたストリップクラブ「シルバー・スリッパ」では、数々の印象的な映像シーンが展開されます。ルーはこの店で、カリスマ性を持ちながらも冷酷なオーナー、アラモ(アドウェール・アキノエ=アグバエ)のもとで働いています。アラモは白いカウボーイハットをかぶり、金メッキの銃を振りかざします。フランソワ・オデュイがプロダクションデザインを手がけたこのクラブは街外れに位置し、まるで80年代に建てられたかのような佇まいを見せています。色鮮やかな照明に包まれたその空間は、スタイリッシュでありながら危険な空気を漂わせており、随所に飾られた動物の剥製が、獲物を狙うような不穏なムードをさらに強調しています。
『ユーフォリア/EUPHORIA』 シーズン3
(U-NEXTにて独占配信中)
製作年: 2026年
製作国: アメリカ
原 題: Euphoria
チャンネル: HBO
配 信: U-NEXT
公式サイト: https://video.unext.jp/title/SID0285893
「迷路のように入り組んだ豪華な宮殿と、退廃的なストリップクラブを同時に作り出すため、セットのデザインには黄金色のタングステン電球のルックを取り入れました」とレーブは説明します。「セット内には、プラクティカルライトをたくさん設置しました。ほとんどのシーンはVISION3で撮影しましたが、昼間のルックだけはVERITAで撮影しました。つまり、外では太陽が昇っている設定のデイシーンです。VERITAで撮影したことで、まるで想像上の作業灯が空間全体を照らしているような感覚が生まれるんです」
一方、クリスタル製の医療用プロテクターを身に着けたストリッパー、マジック(スペイン人歌手ロザリア)が登場するポールダンスのシーンでは、ステージ上部を囲むように吊るされた電球のリングに加え、下からのアップライトも使用されました。「下からのライトとトップライト、さらにステージを囲むエジソン電球を微調整するだけで、空中に浮かぶダンサーたちを思い通りに照らすことができました」とレーブは付け加えます。「異なるルックを生み出すうえで、本当に素晴らしいセットアップでした」
シーズン3でVERITAを選択する最大の決め手となったのは、その豊かさを活かした幅広い表現力にあります。エンターテインメント業界、不動産、ストリップクラブ、ドラッグ取引といった複数のストーリーラインが交錯することで、制作チームは1940年代から90年代まで、多彩なルックを追求することができました。「アメリカ映画に対する自分たちなりの小さなアイデアやリファレンスがありました」とレーブは語ります。「そこには間違いなく西部劇的な要素があります。新シーズンは意図的にスケールを拡大していて、私たちは使用するツールもそれに見合うものにしようと努めたのです」



