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2026年 6月 16日 VOL.266

没入感にあふれる実存的な砂漠の旅路を描いたオリベル・ラシェ監督の『シラート』において、コダックのスーパー16は、撮影監督マウロ・エルセとって最高の選択となった

オリベル・ラシェ監督作『シラート』の1シーン Courtesy Neon/Mubi.

スーパー16で撮影された映像に、時折凄みのあるテクノのサウンドトラックを伴うオリベル・ラシェ監督の実存的なドラマ『シラート』は、容易にジャンル分けできる作品ではありません。しかし映画祭では好評を博しており、いずれカルト的名作となる可能性も十分にあります。

『シラート』は、ラシェとサンティアゴ・フィジョールが共同で脚本を手掛け、スペインの撮影監督マウロ・エルセ(AEC)が撮影を担当しました。そのタイトルは、天国と地獄を結ぶ狭く危険な道を意味するアラビア語に由来しています。

製作費650万ユーロ(約12億円)の本作は、スペイン人の父親ルイスが、数か月前に砂漠の奥地で開かれたレイブパーティーでの目撃を最後に失踪した娘マルを必死に捜してモロッコ南部を旅する姿を描きます。息子のエステバンと飼い犬のピパを連れたルイスは、快楽に身を委ねる人々が集うパーティーをさまよい歩き、やがてマルを見かけたかもしれないと言う一団と出会います。

Photo by Quim Vives.

軍が到着し、イベントを強制的に中止させて軍事目的のために土地を立ち退かせようとすると、ルイスは親身になってくれた一団を追って自らの車で出発することを決意します。彼らは、モーリタニア国境近くで開かれるという、半ば伝説化した第二のレイブを目指し、ボロボロのキャンピングカーで走り去っていました。ルイスには、マルがその方向にいるかもしれないという直感があったのです。

終末的な世界危機が迫る中、ルイスとエステバンはやがて、灼熱の太陽と激しい砂嵐、そして断崖絶壁に張り出した狭い山道が続く、焼けつくような原初的な風景の奥深くへと分け入り、生と死の綱渡りのような旅路をたどることになります。

数々の受賞歴の中でも、『シラート』は2025年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しています。エルセによる鮮烈な撮影表現と、カンディング・レイによる脈打つようなテクノのサウンドスケープの組み合わせが、希望の喪失をめぐる瞑想的な作品を生み出したとして高く評価されました。エルセはさらに、権威あるマナキ・ブラザーズ映画祭の2025年ブロンズ・カメラ賞、2026年ヨーロッパ映画賞の最優秀撮影賞を受賞しています。また『シラート』は2026年アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされています。

オリベル・ラシェ監督作『シラート』の1シーン Courtesy Neon/Mubi.

『シラート』は、エルセにとってラシェ監督との3度目のタッグとなる作品です。これまでの作品としては、同じくモロッコの岩場や砂漠を舞台にした受賞作『Mimosas』(2016年)と『Fire Will Come』(2019年)があり、いずれも雄大なカメラワークで称賛され、コダックの16mmフィルムで撮影されました。エルセはそれ以前にも、ラシェがプロデューサーを務めたアルベルト・グラシア監督の『The Fifth Gospel of Kaspar Hauser』(2013年)にも参加しており、同作では16mmのボレックスカメラを用いて撮影を行いました。

「オリベルはいつもフィルムで撮りたがりますし、私もフィルムが大好きです」とエルセは語ります。「フィルムは何か違うものをもたらしてくれます。フィルムが捉える色や陰影には、ある種の魔法のようなオーラがあります。『Mimosas』のように、頭上から照りつける硬質な太陽光の下で風景や屋外を撮影するときには特にそうです。『シラート』にもフィルム撮影が最適だろうと、私たちは分かっていました」

エルセとラシェは、自分たちの作品が何かに似通ったものにならないよう、撮影に関する直接的なリファレンスをあえて持たないようにしていると明かします。とはいえ2人は、『恐怖の報酬(The Wages of Fear / Le Salaire de la Peur)』(1953年、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督、アルマン・ティラール撮影監督)に見られる迫力満点の汗にまみれた美学や、『恐怖の報酬(Sorcerer)』(1977年、ウィリアム・フリードキン監督、ジョン・M・スティーブンス/ディック・ブッシュ撮影監督)の張りつめた、身体感覚に訴えるようなニヒリズム、さらに『マッドマックス』シリーズ(1979~2015年、ジョージ・ミラー監督)のディーゼルパンク的スタイルを吸収していました。

「灼熱の砂漠の陽光の中で、車に乗った登場人物を撮影するのが好きなんです。そしてこの作品では、自分たち独自の視覚言語を見つけることが何より重要でした」とエルセは述べます。「その点で、オリベルは私に大きな創作上の自由を与えてくれました。彼は、ショットリスト作りや具体的な構図よりも、作品全体の世界観の構築、登場人物、そして彼らの感情に関心を寄せています。ショットリストや構図は、私に委ねられていました」

「音楽とサウンドスケープが、この映画で重要な役割を果たすことは分かっていました。そのため、台詞がほとんど、あるいは全くないシーンでは、物語として何が起きているのかを感覚的に伝えつつ、同時に謎めいた雰囲気や不穏さ、サスペンスの気配も漂わせる必要がありました」

「派手なアクション映画では、シーンをさまざまなアングルから数多く撮影することがよくありますが、私たちはカメラワークをずっと落ち着いた、抑制的なものにすることにしました。砂漠の風景の中にいる登場人物たちを長回しで捉えることで、観客に没入感をもたらし、ときには感覚が不思議に増幅されるような体験を生み出すためです」

オリベル・ラシェ監督作『シラート』の1シーン Courtesy Neon/Mubi.

『シラート』の主要撮影は、2024年5月から6月にかけて行われました。資金調達の都合上、この長編映画の一部はスペインで撮影されることになりました。アラゴン州のフィルム・コミッションの支援を受け、撮影は1ヶ月にわたり、印象的な赤い岩の渓谷が広がるランブラ・デ・バラチナ周辺のほか、テルエル県とサラゴサ県で行われました。制作はその後モロッコへと移り、山の多い東部のエルラシディア県周辺と、エルフードの町の周辺に広がる砂漠で4週間にわたって撮影を行いました。

「モロッコでロケ地を見つけるのは簡単でしたが、同じように見え、物語の連続性を維持できる景観をスペインで見つけるのは、はるかに困難でした」とエルセは語ります。

「また、一部のシーンは物語の時系列どおりには撮影されませんでした。例えば、川を渡るシーンや岩だらけの山道のシーンはモロッコで撮影されました。ですが、それらの前後にあたるシーン、雨の夜に山を登るシーンや劇的な事故などのシーンはスペインで撮影されました。ですから、それらを正しくつなぎ合わせる作業は、私にとってかなり複雑なパズルだったのでした」

オリベル・ラシェ監督作『シラート』の1シーン Courtesy Neon/Mubi.

アナモフィックの35mmフィルムで『シラート』を撮影したかったとエルセは語ります。しかし、運用面の費用が当初の想定よりも高額になると分かったことに加え、レンズが荒れた地形や埃っぽい環境に耐えられるかどうかという懸念もありました。

「要するに、すぐに使える同等の代替機材がない状態で7週間も砂漠に入るのは、あまりにもリスクが高すぎると思ったんです」と彼は説明します。「そこで、スーパー16に考えを切り替えました。以前の『Mimosas』と『Fire Will Come』での経験から分かっていたように、16mmで撮影することの利点は、35mmと比べてカメラパッケージがかなり小さく軽量で、取り回しがよいことです。それは、この制作において重要な要素となるものでした。それでもレンズは大切な機材ですが、万一何らかのトラブルが起きた場合でも、はるかに安価で済みます」

撮影にあたって、エルセはARRIFLEX 416 16mmカメラを選び、ARRIツァイス ウルトラプライムレンズを使用して、アスペクト比1.85:1でフレーミングしました。カメラパッケージは、バルセロナのシネ・テクニコから提供されました。

Photo by Quim Vives.

エルセが選んだフィルムストックは、日中の屋外シーンと一部の屋内シーンにはコダックVISION3 250D カラーネガティブフィルム 7207、本作の夜間のシーンには500T 7219でした。フィルムの現像と2Kスキャンは、パリのトランスパーフェクト・メディア(旧ハイヴェンティ)で行われました。最終的なカラーグレーディングは、バルセロナのCubeでラファ・マルモドロによって行われました。

「私がこの10年間にフィルムで撮影してきた作品は、すべてコダックのフィルムで撮影されています」とエルセは語ります。「日中の屋外シーンには50D 7203が好みなのですが、私にとっては500Tとのコントラスト差が大きすぎたでしょう」

「そこで、250Dと500Tを選びました。両者は粒子感と質感の面でより近く、カラーグレーディングの際に自然に馴染ませるのがはるかに容易だからです。250Dは常に美しく、表情豊かな画をもたらしてくれますし、500Tは驚くほど汎用性に優れています。ハイライトをにじませたり白飛びさせたりしても、画面の暗部にはディテールが残ると確信していました」

Photo by Quim Vives.

エルセはこう続けます。「2Kスキャンには全く不満がありませんでした。16mmフィルムで撮影する場合、2Kと4Kの間にそれほど大きな違いはないからです。露出補正や粒子感、色、コントラストの変更が必要になる状況も一度もなかったため、ラボでの増感現像も減感現像も行いませんでした。カメラから得られた映像には満足していましたし、2Kスキャンされたラッシュには、最終的なカラーグレーディングで必要な調整を加えるのに十分なラチチュードがあると分かっていました」

エルセは全編を通じて自身でカメラを操作し、フォーカスはハビ・バルベロが、ステディカムはラシド・タリディが担当してサポートしました。アルフレド・アルコスがグリップチームを率い、ペップ・スエラスがチーフ照明技師を務めました。セカンドユニットの撮影は、ディエゴ・ロメロによって行われました。

「イージーリグを使うのは好きではないんです。私は身長がかなり高いので、自分の歩幅による揺れがカメラの動きに出てしまうのをいつも感じてしまうからです。そこでステディカムを使用し、それ以外はシンプルに手持ちで撮影しました。登場人物同士の間をパンで移動するシーンは、三脚を使わずに撮影しました。俳優とともに移動するショットでは、カメラを3軸のブラックアームに取り付け、押して動かせるシンプルな三輪のリグを使っています。車両シーンでは、カメラをある種の3軸ロシアン/モロッカン・アームに取り付けたカメラカーも使用し、列車のシーンでは伸縮式クレーンを使いました。いずれも、パン/チルトは私がホイールで操作しています」

Photo by Quim Vives.

ラシェが求めるリアリスティックな美学に沿って、日中のシーンは自然光で撮影されました。その光はおおむね、頭上から明るく照りつける太陽光でした。

「日中の屋外シーンの撮影では必然的に、各時点で太陽がどこにあるかを見極めて計画することが中心となりました」とエルセは語ります。「その上で、バウンス、ディフュージョン、ネガフィル用のフレームを使用し、光をコントロールして連続性を維持しました」

「夜のシーンでは、HMIなどの強力な光源を高い位置に配置し、月明かりのように全体を照らせるロケーションを探すというアプローチを取りました。その上で、俳優たちの近くにはCreamsource VortexとARRIスカイパネル、アステラ社のタイタンチューブを複数配置して使用しました。また、より強い光が得られるよう、車両内の電球も性能の良いものに交換しました」

Photo by Quim Vives.

最大の課題の一つは、強烈な暑さと砂埃の中で作業することだったとエルセは語ります。「モロッコでは、気温がほぼ毎日摂氏45℃(華氏110°F)に達し、砂や粒子が至るところに舞っていました。日焼け止めを大量に使いましたし、水分と体力を維持するために電解質ドリンクも多く摂取しました」

彼はまた、こうも認めます。「いくつかの大がかりな見せ場を撮影している間には、緊張する瞬間もありました。しかも、車両はとても古く、絶えず修理が必要でした。そのため、私たち全員が冷静さを保ち、辛抱強く対応する必要がありました」

「オリベルは、ショットリストの作成やフレーミングについて私に大きな創作上の自由を与えてくれましたが、多くのロケ地では技術的な制約がありました。例えば、採石場で撮影したシーンでは、費用を負担して車両が走行できる道路を切り開いてもらう必要があり、その道路の向きもカメラの構図に合わせなければなりませんでした。さらに、ポストプロダクションで背景を差し替えるためにグリーンスクリーンも設置しました。そのシーンは、撮影できる画郭が90度に限られていたため撮影が困難でした。つまり、午前中は丘の上側で作業し、その後グリーンスクリーンの向きを変えて、午後には丘の下側から撮影しなければならなかったということです」

Photo by Quim Vives.

(2026年3月17日発信 Kodakウェブサイトより)

『シラート』

 (6月5日より全国公開中)

 製作年: 2025年

 製作国: ​スペイン/フランス

 原 題: Sirāt

 配 給: トランスフォーマー

​ 公式サイト:  https://transformer.co.jp/m/sirat/

「この作品の衝撃的な結末もまた、舞台となる空間が抽象的だったため難しい課題でした。つまり、そこは平坦に広がる砂漠で、キャンピングカーと登場人物たち、ラウドスピーカー、遠くの水平線、そして背景の山々以外には何もなかったのです」

「私たちはそこで、十数カットの異なるシーンを次々に撮影しなければなりませんでした。連続性を保つために太陽光の動きを追いながら、それらのシーンのショットリストを組み立てるのは、かなり頭を使う作業でした。砂嵐が起きたとき、ルイスが実際に砂をかぶる様子を撮影できる機会もありましたが、ドキュメンタリーのように即座に対応しなければなりませんでした。そうした状況を生かしながら撮影するには、頭をフル回転させる必要があったんです」

『シラート』の撮影を振り返り、エルセはこう語ります。「準備から撮影、ポストプロダクションまで、この作品に人生の40週間を捧げました。非常に困難ではありましたが、その仕上がりをとても誇りに思っています。これほどの賞や注目を受けるとは全く思っていませんでしたし、そのすべてがとても嬉しい驚きでした」

「私たちは、映像と音が相互にうまく機能することを強く信じていました。また、露出計を頼りにすることを含め、フィルムで撮影するプロセスそのものも信頼していました。毎晩、ビューファインダー越しに見た画を頭に浮かべながら眠りにつきましたが、それが最終的にどうなるのかは分かりませんでした。しかし、ラボから現像された映像が戻ってくると、私たちはほとんどいつも良い意味で驚かされました。フィルムには思わず「わあ」と声が出るような魔法の力があります。そして、その仕上がりはほとんど常に想像以上のものでした。作品はそれぞれにふさわしいツールで撮影されるべきですが、この作品にはフィルムが最適な選択でした」

予告篇

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