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2026年 9月 18日 VOL.271

第83回ヴェネチア国際映画祭
コンペティション部門正式出品

実写映画『ルックバック』
― 撮影 上野千蔵
氏 インタビュー

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

『チェンソーマン』で知られる漫画家・藤本タツキ氏が2021年に発表し、2024年の劇場アニメ化など大きな反響を呼んだ話題作『ルックバック』。漫画へのひたむきな情熱と少女たちの成長・喪失を描いた同作が、『万引き家族』(2018年公開)や『怪物』(2023年公開)で知られる是枝裕和監督の手により初の実写映画化。是枝監督が監督・脚本・編集を務め、小学生時代から始まるふたりの13年間にわたる軌跡をみずみずしく丁寧に描き出します。

 

撮影は、今回長編映画として監督と初めてタッグを組む上野千蔵氏が担当。秋田県にかほ市を中心に四季を通して行われ、美しい風景とともに二度と戻らない時間を駆け抜けた少女たちの姿をスクリーンに映し出します。2026年9月11日(金)全国劇場公開中。

今号では、上野千蔵氏にフィルムでの撮影や現場についてのお話をお伺いしました。

まず、今回35mmフィルムでの撮影を選択された理由についてお聞かせください。

上野C:是枝監督からこの作品のお話をいただいて、最初にお会いした際に、監督から「カメラはどうしますか?」と聞かれました。その段階ではまだ脚本も完成していなくて、明確ではなかった部分もあったのですが、デジタルかフィルムかという選択肢の中で、もしかしたら35mmで撮影できる可能性もあるのではないかと思い、「できるのであれば35mmフィルムで撮影したいです」とお伝えしたところ、是枝監督から「それではフィルムでやりましょう」と言われました。

是枝監督とご一緒されることになったきっかけは、何だったのでしょうか?

上野C:是枝監督が私の撮影したある配信ドラマを見てくださっていて、その後、テレビのショートフィルムの撮影があり、声をかけていただいたことがきっかけです。5分くらいのショートフィルムを撮ったんですけど、十分な撮影時間がない作品だったのですが、「次はじっくり時間のあるものをやりましょうね」と言っていただけて…。まさか今回、この作品で撮影の依頼をいただくとはその時は思っていなかったので、本当にお声掛けいただいてびっくりしました。

Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

今回の撮影でこれまでの作品と比べて意識された点などはありますか?

上野C:作品毎に毎回どうやって撮っていくかということを考えながら作品に臨むのですが、今回は特にカメラの存在感みたいなものというか、カメラがなぜそこにあるのかということを常に考えていました。例えば以前やった作品で、カメラの存在感をなるべく消して、役者の芝居や監督の演出などを大切にし、邪魔しないように撮影するということを強く意識して、なるべくカメラの気配を消して撮ろうとした作品があったんですけど、その意識が強過ぎてしまって、自分の感覚的にはとても恣意的な画になってしまったということがありました。今回はそういう意味で、なるべく肩の力を抜いて、カメラを消し過ぎようともせず、そこにカメラがあっても良いよねという感覚というか、ゆるくカメラがそこにあるような感じというのを意識して置き方に気を付けていた感はあります。

テストで撮影されたフィルムの印象はいかがでしたか?

上野C:CMではフィルムを使っているんですけど、あまり細かい露出のテストやフィルムタイプのテストまではできないので、今回はこれを機にVISION3 250D 5207、200T 5213、500T 5219の3タイプのフィルムで質感がどのくらい違うのかを改めて再確認させてもらいました。現像についても増減感やラチチュードのテストもして、フィルム撮影についてのテクニカルなテストを行った感じです。また、ブルーバックでの合成シーンがあったので、CG部さんからの要請で、フィルムでのブルーバックの抜け感についてのテストも行いました。テスト撮影には実際に役者の岡田六花さんが付き合ってくれて、絵を描いている様子を撮影したのですが、監督はその画を見て、すごく印象的だということで大変喜ばれていましたね。

撮影期間やロケ場所について教えてください。

上野C:2025年の2月に、秋田県のにかほ市でインしました。ロケ地はにかほ市内などさまざまな場所で撮影しています。2月から2か月半ぐらい、にかほ市のある施設の体育館のような場所にセットを組んでスタジオとして使用するなど、ずっとにかほ市に滞在してメインの撮影を行いました。その後、季節の変化を単発で撮影していって、その年の夏にも1週間ぐらいにかほ市に滞在して小学校のシーンを撮影しました。内容としてはそこで一度クランクアップしています。その後、やはり季節として秋も撮影しましょうということになり、追加の撮影を行いました。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

フィルムタイプについては、250Dをメインで使用され、ナイターが500Tだったと伺いましたが、その選択の理由を聞かせてください。

上野C:テストで質感を比べてみて、一番好きだったのが250Dだったのですが、理想としては500Tだけにして、フィルムタイプをひとつに絞っていきたかったんです。ただ、デイシーンのテストで、250Dと500Tを使った際に、500Tも十分綺麗だったんですが、250Dの方がしっとりとした感じがして、ちょっと密度があるような感じで、今回狙っているルックの質感に近いかなと思いました。とはいえナイターのシーンも結構あるので、そこは500Tを使用して使い分けました。デイシーンだけだったら50D 5203の良さもあるのでそれも考えたのですが、50Dだけだとマジックアワーになってくると光量の不安などが出てくるので、250Dを選択しました。贅沢な現場だったので、いろいろなフィルムタイプを用意することもできたのですが、撮影部の運用上、結構大変になってくるので、総合的に見て判断したところもあります。

機材とレンズについて教えてください。

上野C:ARRICAM LTとHSはARRIFLEX 435です。レンズはLEITZ SUMMILUX-Cで、アスペクト比はヨーロピアンビスタ(1:1.66)です。手持ちの撮影が結構多かったので、LTにしました。レンズについてはいくつか試したのですが、あまりクラシックレンズのテストなどはしていなくて、レンズのルックだけに頼りたくなかったというか、せっかくフィルムで撮らせてもらえますし、味のあるレンズやフィルターなどを入れたくなかったので、ある程度新しめの設計のレンズの中からSUMMILUX-Cを選びました。若干ですが、マスタープライムはムードに合わなかった感があったのと、SUMMILUX-Cの方がやや軽量で機動力もあって、明るさと小ささ、解像度で選んだ感じです。ヨーロピアンビスタ(1:1.66) は元々好きな画郭で、過去の作品でも何度か使用しています。この作品では画郭もなるべく主張したくないと思っていて、自分的には1:1.66が一番目につかない画郭だと感じています。また、今回は漫画らしさのあるフレームというのも意識はしました。そういう意味でスタンダードの4:3も考慮しましたが、最近の横長に見慣れているせいなのか、それも逆に人為的に感じてしまい、1:1.66がちょうど良い落とし所だったと思っています。

撮影現場で苦労されたシーンやこだわられたシーン、また特に印象に残っているシーンについて教えてください。

上野C:クランクインは夜の雪道のシーンからでしたが、そこの雪が解ける前に撮影しないといけなかったためで、そのあとスタジオで子供たちの部屋の中を撮り始めました。いきなりスタジオでライティング、ブルーバックでの撮影というのは、結構難しかったですね。もちろんリアルなライティングを作っていきたかったので、そこは照明の西田まさちおさんと一緒に、なるべくリアルな日の高さや、この季節だったらこのぐらいの角度で日が入ってくるということを計算してもらって、話し合いながらやっていった感じです。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

あとは雨のシーンですね。原作もアニメでもとても印象的なシーンとして雨のシーンがあるのですが、すごく記憶に残るシーンだと思うので、そこをいかに実写化するかということで、またそれと同じものを撮っても仕方がないので、まず原作にも負けないようなものを撮らなければいけないというプレッシャーがありました。テクニカルな話ですが、雨降ってるし、走ってるし、その上で、雨をまず見せること自体が意外と地味に難しいことだったりするんです。雨って、抜けに黒いものでもないとあまり見えてこないので、雨降らしでやっても、空が晴れていると嘘に見えてしまいますし、では雲があって雨で撮れるのが良かったと思うんですけど、そうなると今度は雨が見えづらくなってきてしまう。そんなシーンでした。実際は、いろいろ撮り方をすごく悩んで考えた結果、結局シンプルでいいんじゃないかなということにたどり着いた気がします。やはり本当に本物の実写の強みということで、人間のお芝居を真っ直ぐ正面から撮ってあげればいいんじゃないかなという感じで、結果的にはあんまりトリッキーなことはせず、でも実際それで良かったんじゃないかなと思っています。

原作は場面描写が多くて、セリフのないシーンが多いですよね?

上野C:そうですね。主人公が漫画を描いている背中などの描写がすごく多い作品で、アニメーションでもすごく短かったですし、原作もページ数が少ないんです。子供が大人になっていくまでというところは情景として描写されていくんですけど、そういうところで贅沢に四季を撮らせてもらったのは本当にありがたかったですね。一つ一つのシーンを一枚だけ切り取った場合だとそこまで印象的にはならないかもしれないですけど、実写の映像で丁寧に、本当の四季が変化していく様子というのは意外と心に残るものなんじゃないかなと思っています。単純に紅葉なり雪なり夏の景色をシンプルに撮らせてもらったのは、本当に美しかったなと思いますね。すごく好きなショットはたくさんあります。

現場での是枝監督の演出はいかがでしたか?

上野C:あまり細かく指示するというよりは、その役者さんに合わせて演出していくタイプの方です。藤野役の七瀬ふうりさんの演出として、彼女が「練習タイムを頂戴」と現場で言ったことから、そこから現場に「練習タイム」というものが新たに生まれたんですけど、監督から、「では練習が終わったら呼びに来て」とか、今までの是枝監督の現場にはなかったはずの手法で、役者に合わせて柔軟にやり方を変えてらっしゃいました。オッケーも早いですし、だから一見そんなに特別なことをやっているように見えないのに、是枝監督のトーンを創っていって、良いものを創っていくというすごく難しいことを実践されている方だなと思います。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

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是枝監督自身の演出の味付けみたいなものはとても薄味で、その点がすごく特徴的なのではないかなと思います。もちろん、裏での役者さんとのやり取りがきっとあるんでしょうし、キャスティングでその人を選んだということが、もうその時点で「この役にはこの人だな」という感じが監督の中であるとは思います。今回もある子役には脚本を渡さず現場に来てもらっていたりしたのですが、この子には脚本を読ませた方が良いとか、この子はない方が良い演技ができるだろうということをやられているそうです。ある時、「その判断はどうやって決めているんですか?」と聞いたら、「まあ、勘としか言いようがないですね」とおっしゃっていました。なので、やはり監督の役者を見る目っていうところに尽きるのではないかなと思います。

劇中で耳に手を当てるシーンがとても印象的だったのですが?

上野C:海の音が聞こえるってやつですね。あれは七瀬ふうりさんが「耳に当てたら海の音が聞こえるんだよ」っていうのをおばあちゃんに聞いたんだという話を監督と雑談の中でしていて、監督が「それもいいね」ということで採用されたと思います。すごく印象的なシーンへの繋がりになっていくのですが、何気ない会話から生まれた演出の一つですね。

Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

映画監督の中には、脚本の段階でその通りに完璧なものを目指すというタイプの方もいらっしゃいますが、是枝監督はそれとは逆に現場でいろいろと変化していくことに面白さを感じられているのではないかと私は思います。むしろ、決めつけ過ぎたくないという意思があるように思います。役者のみならず、ほとんど初めて仕事をする私に対しても、自由を与えてくれるといいますか、基本的になるべくお任せでというスタンスで、方向性についてもあまり縛りたくない感じがありました。

照明の西田まさちおさんとの連携について教えてください。

上野C:付き合いは長くて、私がカメラマンになる直前の時にはまだ照明部の助手だったのですが、非常に真面目で、すごくしっかりとした仕事をしてくれる方だなという印象です。私はDPシステムというか、照明のこともある程度相談しながらやりたいタイプなので、なるべく自分の意思も照明についても反映させていきたいんです。すでに一線で活躍されている照明技師の方にはちょっと言いづらかったりする部分もあったりするので、なるべく優秀な照明チーフみたいなのを助手時代から目星をつけたりしていたんですけど、結構早い段階から一緒に仕事をやってもらいました。とても優秀で頭の回転も早く、香盤的な要素だとか、撮影監督的な設定もすごく理解してやってくれているので、いわゆる相棒な感じです。もちろん別に私がDPだからといって彼に照明のアイデアがないわけではなくて、むしろ私よりも照明の知識が十分あるので、とても頼りになる相方です。今回に関しては、もちろん大きくどういう方向性でやりたいかという話はしていて、基本的にはなるべく自然光でいける限りはいきたいというやり方でした。ただ、前提としてスタジオ撮影があるので、スタジオでもなるべく自然光らしい照明を創る必要があったのと、場面描写で矢継ぎ早に季節のライティングが変わっていかないといけないので、そこもスピードも含めて、良いシステムを西田君のアイデアも貰いつつ、一緒に設計していけたと思います。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

撮影部の連携についてはいかがでしたか?

上野C:今回は撮影部として長いこと一緒に生活していたのでよくみんなで飲みにいったり、温泉に行ったり撮休に鳥海山に登ったりと、本当に仲の良いチームでした。昨今フィルムを扱える助手も減ってきていますが、チーフの甲斐公康君とは助手時代から一緒に仕事していてもう20年以上の付き合いのある大ベテランで、チーフとして私以上にフィルムの経験もあり、とても頼りになる存在でした。セカンドの岩崎真也君とはCM撮影で何度か一緒だったくらいでしたが、彼もかなりの経験があり、フォーカスの巧さには驚かされました。是枝監督もフォーカスのミスがほとんどなくとても喜んでいました。いわゆる演出的なフォーカス送りもとても巧く、ある難しいシーンのコンテに「岩崎さん、ここはよろしくおねがいします」と直筆で書かれた程でした。デジタルの様にモニターだけでは判断できないフィルムの現場では、フォーカスマンの技術に一番不安があるので、彼には本当に助けてもらいました。サードの仲原大真君や他の若い助手達もフィルムの経験がまだ浅いんですが、とても前向きに取り組んでくれて、こういう現場でしっかり技術を覚えていってもらえたことが嬉しかったです。
 

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

撮影スタイルについて教えてください。

上野C:フィックスと手持ちが半々ぐらいですかね。フィックスの方がちょっと多かったかもしれないですけど、シーンによってフィックスパートと手持ちパートを分けています。冒頭とか主人公たちが出会う前までは、ある程度しっかりカッチリ撮っているような感じですかね。手持ちは二人が出会った後の高揚感みたいなところだったり、もともとの想定ではもっと自由に遊んだり、描いたりするようなところを、カメラをフィックスにしてしまうとその中に制限してしまうなという気持ちがあったので、自由に動いてもらって、演出的にそういうふうになったらいいなという思いで、こっちも手持ちで待ち構えていた感じです。雨のシーン以降のどんどん成長していく二人は手持ちで撮影しました。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

今回は漫画原作がありますが、映像化するにあたって何かリファレンスにされた作品はありましたか?

上野C:監督からも特になかったですね。私は普段からなんですがある映画とかをリファレンスにむしろなるべくしないようにしています。もちろん参考にとか、いろいろ自分の表現が広がるように映画を観ようとは思いますが、ある映画を見てこれを真似して作ろうとすると、最初からこうやって撮ってやろうっていうものになってしまう気がします。私は以前、「好きな映像ってどんなのですか?」と質問されたことがあって、あまり言葉にしたことはなかったのですが、「匂いがする映像みたいなものが好きだな」って答えたんです。抽象的なんですけど、匂いがするような感じが好きです。じゃあ、匂いがする映像とはどんなものだろうと自分なりに考えていた時に、それはまだわからないんです。ただ、匂いがしない方の映画みたいなものはある気がして、それは何かと言うと最初から撮る前からこうやって撮ってやろうって決めて撮っている映像みたいなものなんですよね。やはりその撮影者がその場所に行って、それこそ今回の四季をいろいろと撮らせてもらっているので、その場その場でこれが良いから撮ろうという感覚を大切にしています。

今回もアニメーションはもちろん、このお話をいただく前と後で計2回観ましたけど、引っ張られたくないので、それっきり観ないようにしていました。漫画の原作のほうは、ロケハンが先に進んでいてまだ脚本がなかったので、漫画を参考にしてロケハンしていました。だいたい最低限は、小学校のシーンや主人公たちの家は必要だよねっていうところで、シーンの頭出しという意味で使用していました。もちろん何度か読みましたが、それを解読して生かしていこうみたいな読み方はしてないです。

是枝監督と撮影の方向性はどのように決められましたか?

上野C:私が監督に「どんな感じにしたいですか?」と聞いたときに、ちょっと間を置いた後に、「いや、ないです。お任せします」とおっしゃって、ただ一言だけ、「そんなに丁寧に撮らなくて大丈夫です」と言われました。本当にそれだけでしたね。それはつまり、私の解釈では、ちゃんと表情が見えるように丁寧にライティングしていくとか、作り込んでいかなくていいよっていう意味だと解釈しました。画としてつぶれるところがあったらつぶれてもいいし、どこか飛んでもいいしっていう、画をしっかり残すために作為的な感じにはしたくないっていうことだったんじゃないかなと思います。それは自然に私もそういうふうにしたいなって思っていたことと共通していたような気がします。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

今回の作品の最大のチャレンジといえば何になりますか?

上野C:そもそも、全てがチャレンジだなって感じです。いきなり是枝監督の作品、長編で、有名な漫画・アニメーションの原作の映像化で、しかもフィルム撮影ですからね。お話をいただいた時から、ものすごい気合を入れていたのですが、世界中が観るだろうし、みんなからの期待感もすごいんですよね。いろんな方から「超楽しみにしている」って言われて。「期待しててください」と自信を持って言っています。ですので、めっちゃいい画を撮ってやろうと、事前にいろんなことを想像しながら、より良くするにはどうしようかという考えも巡らせはしましたけど、この作品の性質上、あんまりかっこいいライティングとかカメラワークとかをしてはいけないなと思っていました。カメラを消したいわけではないですが、出したいわけではもっとない。いい距離感というか、カメラが本当に映画の中で自然と溶け込んでいたらいいなというような感じです。あくまでも一番大切なのはそこにいる主人公の2人と、そこにあるにかほの空気感というか風景みたいなものだったので、そこを素直に受け取って、是枝監督の塩味と一緒ですけど、なるべくこっちからは変な調味料を加えない、自然をそのまま、美しいはずのものをいただくという、そこに集中しました。そういった、チャレンジしないことがチャレンジでしたね。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

仕上げについての感想をお聞かせください。

上野C:仕上がりに関しては、とても満足しています。本当にフィルムで良かったなと思っています。柔らかい感じにしたいなという思いがあったので、この世界観に合っているトーンを、難しいんですけど、結構自分が狙っていた感じにはなったんじゃないかと思います。現像とグレーディングはIMAGICAエンタテインメントメディアサービスで、ScanStationで4Kスキャンし、カラリストは横田早紀さんです。現像についてはノーマルと1/4減感で、少しだけ1/2減感、1/8減感のシーンがあります。シンプルに、回想シーンは減感で、普通の話のシーンはノーマル現像と使い分けています。

グレーディングで特にこだわった点、意識された点はありますか?

上野C:狙っていた柔らかいトーンというのを目指すことにこだわってはいるんですが、変なフィルターをあまり入れたくはないので、それほどグリグリいじり回さなくても、フィルムだという時点で十分綺麗なんです。もちろん棒焼きみたいなものでは全然なくて、横田さんが美しく仕上げてくれていて、シンプルに暗部のレベルをこのくらいにして、ハイの方を少しだけ丸くしてとか、ある程度スタンダードなカーブの作り方を、一番の最適解だと思われるところに置いたという感じだと思います。あんまり濁らせるとかもしていないです。横田さんとは数作品ご一緒していて、素直に美しく仕上げてくれるという印象があります。
 

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

監督やスタッフの皆さんの仕上がりについての感想はいかがでしたか?

上野C:監督も含めて、皆さん満足していただいていると思います。監督からも、ほとんど一言で「とても良いと思います」と言っていただけて、他のスタッフからも「凄く綺麗だった」と言ってもらえていますね。

フィルム撮影で良かった点はありますか?

上野C:正直言うと、私もデジタル撮影が増えてきて、みんなそうだと思うんですけど、デジタル撮影は嫌だとか言える時代ではなくなってきていて、デジタル撮影を柔軟に扱っているつもりです。ただ、今回フィルム撮影でやらせてもらって思ったのは、デジタル撮影でもフィルムのLUTを当てればそれなりにフィルムっぽくなるし、ある程度までは分からないようになるよなんて言うじゃないですか。私にもそういった感触はあったんですけど、いざ比べてみると、本当に結構、全然違うんだとわかりました。違いはもちろんあるんですけど、良いか悪いかで言うと、やっぱり断然フィルムの方が良いなと思います。なかなかフィルムとデジタルのトーンの差を言葉で表現するのはキャメラマンも苦労している点だと思うんですけど、フィルムはシンプルにクオリティとしてもやっぱり高いですし、ラチチュードとかデータ上でもハイライトとかもこんなに映っていたっけなっていうぐらい粘りも感じます。その粘り方というのも有機物というか、アナログならではの物質の階調のある感じの粘り方も、デジタルのパツンと切れるような何かではなく、すごくいいなと思います。もしかしたら若い人たちは「フィルムって昔の感じでしょう」と思うかもしれないですけど、ノスタルジーな感じで。粒子とかをデジタルのものに乗っけりゃいいみたいな感じもあるかもですが、今回は別に私は粒子とかをあまり出そうと思ってはいなくて、むしろ、なるべくクリーンな方向にしました。私は、ザラザラすることがフィルムの特性だとあまり思っていないので、昔ながらのノスタルジックな感じを狙っているわけでもなく、本当にシンプルにフィルムでクオリティの高いものが撮れたなと思っています。

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Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

あともう一つ、本当にフィルムで良かったなって思う部分は、今回の撮影は、一度きりしかなかった瞬間ということを大切にして、映画ですがドキュメンタリーのように記録していきたいという意識がありました。全力でお芝居をしてくれている俳優たち、スタッフたちもそれを撮るために一生懸命にやっているという、本当に一過性のものだと思うんですけど、その一度きりしかないものを映画として創りたいというよりも、記録したいという感じがありました。今回、それが映画という形に変わっているかもしれないですが、漫画を描くという子たちを、芝居している二人として、しっかり残したいという思いがとても強くて、それは多分是枝監督、そして是枝組のみんなが、どこかでそういう思いを共有していた気がします。本当にあの時に二人がここにいたよねという感覚を、フィルムがよりその感じを強く感じさせてくれる気がします。

(インタビュー:2026年8月)

 PROFILE  

上野 千蔵

うえの せんぞう

1982年鹿児島県出身。2000年より撮影助手として活動。その後撮影留学を経て、2011年撮影監督として独立。広告、ミュージックビデオなど多数の作品で撮影を担当。撮影監督としてCannes Lionsグランプリ、文化庁メディア芸術祭グランプリなど国内外の広告賞を多数受賞している。長編映画としては、関根光才監督『太陽の塔 TOWER OF THE SUN』(2018)、藤井道人監督『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)、関根光才監督『かくしごと』(2024年)、中川龍太郎監督『恒星の向こう側』(2026)など。

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 撮影情報  (敬称略)

予告篇

実写映画『ルックバック』

監督・脚本・編集: 是枝裕和 
撮影: 上野千蔵
撮影助手: 甲斐公康/岩崎真也/仲原大真/猪本太久磨/上野響/山田貴志
撮影応援: 島田裕介/石橋優希
カラリスト: 横田早紀
キャメラ: ARRICAM LT、ARRIFLEX 435
レンズ: LEITZ SUMMILUX-Cシリーズ 18mm~135mm
フィルム: コダック VISION3 500T 5219、250D 5207
現像・スキャン: IMAGICAエンタテインメントメディアサービス
製作: K2 Pictures Production
配給: K2 Pictures
公式サイト:
https://k2pic.com/film/lb/
Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2026 K2 Pictures・集英社

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